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■「1998.02.28」だいすき!最後のクラブ

[No.0000000004]新里

・プール

【小波】あっ、清川さん。
【望】あっ。ぷれすて。
【小波】ついに高校でのクラブ活動も終りだね。
【望】そ、そうだね。
【小波】高校に入ってから水泳を始めて、清川さんに追い付こうと努力してきたけど
  …さすがに無謀だったかな。あはは…。
【望】そんなことないよ、ぷれすて、ずっと頑張ってきたじゃない。
【小波】でも、インターハイでは優勝出来なかったから…。
【望】ぷれすてが誰よりも練習してたのは知ってるわ。だから…。
【小波】いや、部活に悔いはないんだ。やるだけやったんだし。
  ここまで頑張れたのも、清川さんのおかげだよ。
  ありがとう。
【望】そ、そんな、お礼なんていいよ。
  練習はつらかったけど、私も…楽しかったから…。
【小波】清川さん、本当に水泳が好きなんだね。
【望】え、あ、私は、水泳だけじゃなくて…あの、あなたが…。
【小波】へっくしっ!
  …うう、体が冷えてきた。そろそろ、ダウンして上がろうよ。
【望】え、…あ、そうね。
  (ぷれすてったら、もう…。)

・最後のチャンス

【望】あ、ぷれすて。
【小波】清川さん、どうしたの?
【望】(今日で最後なのよ、一緒に帰ろうって…言うのよ、望!)
  えっと、やっぱり…。な、何でもないの…。そ、それじゃ。
【小波】き、清川さん?
タッタッタッタ…

【望】(ああーん、最後のチャンスだったかも知れないのに…。)
  (私の馬鹿!…意気地無し!)

・帰宅

【望】ただいま…。
【母】おかえり。どうしたの、疲れた顔をして…。
【望】う、うん。クラブで…ちょっと張り切ったから…。
【母】そう?(いつもはそんなに疲れてないと思うんだけどねぇ…。)
【望】部屋へ行ってるね…。

・自室(制服のままベッドに倒れ込む…)

【望】終わった…。
  おもえばクラブばかり行ってたような気がするな…。
  明けてもくれても、水泳ばかり…。
  でも、ついに終わったのね、私の高校生活…。
  つらいこともあったけど…。
  …。
  あいつ、結局、私の気持ちには気付いてくれなかったな…。
  クラブも終わっちゃって、明日卒業したら、あいつとも会えなくなるのか…。
  あ、あれ、な、涙が出てきちゃった…。
  どうしよう、止まんない…。
  なんで、なんであんな鈍感で馬鹿な奴の顔を思い出して、
  この私が泣かなきゃいけないのよ。
  べ、別に、悲しくなんて…ないのにさ…。
  あんなやつ、あんな…やつ…。
  うっ…うっ…ぷれすて…。
  こ、こんな気持ちのまま、卒業したくない…。

・晩ご飯の時間

【母】のぞみぃー、ご飯よ!
【望】…。
【母】のぞみぃー?
【望】…。
【母】望、入るわよ?
【望】…。
ガチャッ
【母】どうかしたの、望?
【望】ううん、なんでもない。
【母】何でもないって…。ちょっと、顔を見せなさい。
【望】いいの、ほっといて。
【母】ほっといてって…。クラブで、なんか酷いことでも言われたの?
【望】…。
【母】何か、悲しいことがあったのね…。
【望】お、お母さん、どうしよう…。私、私…。
【母】…。泣いてたって判らないわよ。どうしたの?
【望】お母さん、私、卒業したくない…。
【母】卒業したくないって…どうしてそんな…。
【望】卒業しちゃったら、私、もう会えなくなっちゃう…。
【母】会えないって…。(!)
【望】うっ、うっ…。
【母】望…、ほら、顔を上げて、涙を拭いて。可愛い顔が台無しよ。
【望】うっく、うっく…。
【母】望が、こんなに誰かを好きになるなんて、嬉しいわ。
  望ったら、水泳水泳で、ちっとも女の子らしくしようとしなかったから、
  将来どうなるか、ちょっと心配だったのよ。
【望】…。
【母】水泳は好きだけど、男の子も好きになっちゃったんでしょ?
  でも、どっちを選ぶことも出来なくて、苦しんでるのね?
【望】…。(うなづく)
【母】突き放す言い方になるけど、これは、望が悩んで決めるしかないわね。
  悩んで悩んで…。後悔をしないようにね。
【望】お母さん…。
【母】実はね、私も、恋愛が苦手だったのよ…。
【望】お、お母さんも?
【母】ええ、お父さんにプールに誘われてね、その日は一晩中ドキドキしてたわ。
  今の望を見ていると、すごく気持ちが分かるわ。
  胸が苦しくて、息ができなくなって…。
【望】お母さん、私…。
【母】その子と別々になっちゃうのが怖いのね。…相手は、あの小波くん?
【望】うん…。
【母】小波くんは、何か言ってたの?
【望】ううん、わからない。
  あいつ、いつも優しくしてくれて、でも、鈍感で…。
  一緒に帰ろうって誘おうかと思ったけど、なにも言えなくて…。
  私、私…。
【母】ほらほら、そこで泣かないの。
【望】だって…。
【母】望が、そんなに小波くんのことを好きなんだったら、きっとその気持ちは
  小波くんにも通じているはずよ。
【望】でも、もう会えなくなると思ったら、私…。
【母】小波くんは、卒業したらどうするか、聞いたの?
【望】ううん、私は聞かれたから答えたけど…。
  私、実業団に入って、水泳を続けることしか頭になくて…。
【母】…大丈夫よ、進路が違っても、会えなくなるわけじゃないんだから。
【望】わ、私…、ぷれすてと同じ進路にすれば良かった…。
  水泳なんて出来なくてもいい、あいつと一緒にいたい…。
【母】…望の人生なんだから、望の生きたいように生きればいいのよ。
  ただ、簡単に決めちゃって、後悔だけはしちゃ駄目よ。
【望】お、お母さん…。
【母】望…。お父さんが、どうして望という名前を付けたのか、考えたことある?
【望】…。
【母】望が、自分の人生を幸せに生きること、それが、お父さんとお母さんの
  望みなの…。
  誰かのために、望の気持ちを抑えなくてもいいのよ…。
【望】お、お母さん…。
【母】…さ、お父さんが待ってるから、晩ご飯にしましょう。
  着替えて、顔を洗ってらっしゃい。
【望】う、うん…。

・その夜

【望】このまま会えなくなるなんて、私、耐えられない。
  みんくんが言ってた、伝説の木の話、あの時は笑っちゃったけど、
  今は信じるわ…。
  ああ、でも、もし来てもくれなかったらどうしよう?
  この気持ち、ちゃんと伝えられるかしら…。
  …駄目、手紙には怖くて名前が書けない。
  もし、名前を見て、それで来なかったら…。
  私って、こんなに勇気がなかったのかしら…。

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