“イタイ”満員電車の中で足を踏まれる。 するとすかさず“スミマセン”の声。 この一言で痛さは消えてしまうから不思議である。 もしこれが、そっぽを向いていられると、いつまでも痛みが続く。 歩道で、後ろから来る自転車からベルを鳴らされ道を譲るのは、 イマイマしいものだ。 しかしすれ違い様に“アリガトウゴザイマシタ”と言われると、 “イイエ、ドウイタシマシテ”と、いい気持ちになるからおもしろい。 中学生らしい女の子が用に来た。 “着ている服、あなたによく似合うねぇ”と言ったらツーンとすましていた顔が ほころんだ。 声をかけた者も、かけられた者も心が晴れる。 人を生かすも殺すも、たった一言のコトバである。 小学校4年生のB君がいなくなり、夜になっても帰ってこないので大騒ぎになった。 学年最後の3月24日のことである。 たまたま家にいた父親が、Bの成績表を見て 「なんだ、こんな悪い成績でどうするんだ!勉強しているのか」と頭ごなしに 怒りだした。 そばにいた母親が、追い打ちをかけるように 「そーれごらん。言わんことではないでしょう。ゲームばかりしているから こんなことになるんじゃないの・・・・」とまくし立てる。 それを全部聞かないうちに、Bはプイといなくなってしまったのである。 夜遅くなって、遠くの警察からBを保護しているという連絡が入った。 どうしてこんな遠くまで来たのかとお巡りさんに聞かれ、 Bは「おばあちゃんの所へ行きたい」と答えたという。 3年生の終わりの時に、そのおばあちゃんが家へ来ていた。 お母さんが「Bは成績が悪くて困る」とこぼしたら、おばあちゃんが 「Bだって一生懸命やったんだから、よくやったねと言っておやり」と お母さんをたしなめた。 Bはそのおばあちゃんのところへ行きたかったのだ。 |