ヒメボタルの保護に関する要望書
1999.11.24  
吹田市長 阪口 善雄 殿                       
 
  吹田ヒメボタルの会
 (西山田ヒメボタルの会)
 (吹田自然観察会)
 (すいた市民環境会議)     
要  望  書

   ヒメボタルはゲンジボタルやヘイケボタルとは異なり、幼虫時代に水を必要としないホタルであり、千里丘陵には昔から生息していたと考えられます。今日、開発によりその生息環境が失われ、かろうじて開発を免れた市内の数カ所に生息するのみです。  

 吹田ヒメボタルの会は高町池周辺の千里緑地で昨年からヒメボタルの生息調査をしています。特に今年は市の委託事業として調査し、5月29日夜には743匹のヒメボタルを確認しました。  

 このヒメボタルの群生は吹田市のみならず、北摂地域でも最大のものである可能性があります。また、メスのヒメボタルは後翅が退化し飛ぶことができません。このことより一旦ヒメボタルの生息環境が破壊されると、その再生は不可能です。 
 
 市の委託事業の報告は今年度末に行いますが、途中経過からかんがみ、以下のことを早急に実現するよう要望しますとともに、12月28日までに市としての方針を文書でご回答願います。  
 
    1)吹田市環境基本条例第20、21条および吹田市文化財保護条例第38条に基づき高町池周辺の千里緑地のヒメボタルの群生を吹田市の天然記念物に指定すること。  

2)吹田市環境の保全等に関する条例第25条および都市緑地保全法第3条三項(ロ)の適用により高町池周辺の千里緑地を『緑地保全地区』に定め、ヒメボタルの生息環境を適正に保全すること。  

 ちなみに岡山県は昭和34年3月、岡山県阿哲郡哲多町のヒメボタルを県指定天然記念物に、愛媛県上浮穴郡面河村は平成10年8月、面河村のヒメボタルの群生を村指定天然記念物に指定しています。  
  

 <参考>  
   
吹田市環境基本条例  

 第20条『市は、環境の保全及び創造に関する施策に、市民等の意見を反映する  
     ことができるよう必要な措置を講ずるよう努めるものとする』    
 第21条『市は、環境の保全及び創造に関する活動を市民等とともに推進するた  
     めの体制の整備に努めるものとする』  

吹田市文化財保護条例  

 第38条 教育委員会は、市の区域内に存する記念物のうち、市にとって重要な  
     ものを吹田市指定史跡、吹田市指定名勝又は吹田市指定天然記念物に指  
     定することができる。  

吹田市環境の保全等に関する条例  

 第25条『市は、野生動植物の保護及びその生息環境又は生育環境の保全を図る  
     ための必要な措置を講ずるよう努めるものとする』  

都市緑地保全法  

 第3条『都市計画区域内の緑地で、次の各号の一に該当する土地の区域について  
    は、都市計画に緑地保全地区を定めることができる』  
   三、次のいずれかに該当し、かつ、当該地域の住民の健全な生活環境を確保する  
    ために必要なもの  
  イ:風致又は景観が優れていること  
  ロ:動植物の生息地又は生育地として適正に保全する必要があること  
    (94年法改正にて追加) 

 
 

要望書に対する回答

                                            平成12年1月26日                               
                                          吹田市長  阪口  善雄 
   「要望書」について(回 答)    時下ますますご清祥のこととお喜び申しあげます。 また、平素は本市行政発展のためにご協力賜り、厚くお礼申しあげます。 さて、平成11年11月25日に受け付けさせていただきました標記のご要望につきまして、次のとおり回答させていただきます。  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  
1)吹田市環境基本条例第20、21集及び吹田市文化財保護条例第38条に基づき、高町池 周辺の千里緑地のヒメボタルの群生を吹田市の天然記念物に指定すること。
 

 ちなみに、岡山県は昭和34年3月、岡山県阿哲郡哲多町のヒメボタルを県指定天患記念物に、愛媛県上浮穴郡面河村は平成10年8月、面河村のヒメボタルの群生を村指定天 然記念物に指定しています。 
 

<回 答> 

 文化財保護法は、史跡や名勝とともに記念物という範疇で天然記念物を文化財のひと つに規定しております. 

 この「天然記念物」という用語は、ややもすると絶滅のおそれ のある希少な動植物やすぐれた自然などとしてイメージされ、自然そのものを保護する 制度であるかのように受けとめられる傾向があることは否めません。 

 しかし、法が目的 とする天然記念物とその保護制度は、自然環境の構成要因としての貴重な動植物の保護を目的とする自然保護制度とは異なるものがございます。 

 人は長い歴史を通じて地域によって多様な歴史と文化を生み育んでまいりましたが、なかでも日々暮らす地域の自然と深くかかわった生業や生活の様式は、地域によって一 様でない風土や文化をもたらしました。 

 天然記念物とは、こうした様々な人と自然のか かわりを反映したものをいい、たとえば、それらは信仰や故事に由来する巨樹・老樹の 単木であったり、神の宿る森や山であったり、和歌などに詠まれた景勝の花や紅葉など の植物であったり、神に見立てられた鳥や魚であったりすのです。 

 すなわち、文化財保 護法が対象とする天然記念物は、自然物が地域において歴史や文化と一体的にとらえら れ親しまれてきた文化財ということであり、したがって、その保護しようとする自然は、こうした地域の風土や文化の形成にかかわり、人が育み守り伝えてきた文化的所産 としての自然で、かつ学術的価値を有するものとされるのでございます。 

 吹田市文化財保護条例は、文化財保護法第98条第2項の規定に基づき制定されたもの でございますので、天然記念物についても法の考え方に沿って指定を行うことになります。 

 市文化財保護条例の規定によってヒメボタルの指定を考える場合、当該のヒメボタ ルが地域の歴史や文化形成にどのように関わり、守り伝えられてきた文化的所産なのか ということが重要で、これが学術的にみてどのような価値を有するのかという点を精査 しなければならないという問題がございます。 

 次に、実効性の問題がございます.仮に市文化財保護条例により指定がなされたとし ても、指定の対象となった動植物が衰亡するような事態になれば指定を解除することに なります。 

 指定の解除とならないよう実効ある施策が講じられなければなりませんが、これには人が創造したものと自然が創造したものという性格の違いに起因する難しさが ございます。 

 文化財保護法の体系において執られる文化財の保存方法は、指定をして現状を凍結或いは固定を行うということが中心となります。 

 これは人が創造したものには 有効ですが、自然が創造したもの、すなわち生物の種の保存を図るという目的を達成す るには容易ではない点が多いと考えられます. 

 ご承知のとおり、自然動物の保存管理に おいて大事なことは、すべての動物種は自然界での存在形態として、個体群という形を とることでございます。 

 そしてそれと同時に自然界に存在する種は一種のみで存在することはなく、それをとりまく環境 要素としての他種とともに群集を形成しているということで、それは競争種であったり、捕食種であったり、また餌となる種であったりするという点でございます。 

 動植物 の保護は、同所に存在する捕食種や被食種その他のものの存在を抜きにしては考えることはできず、こうしたものの生息地も含む生態系全てを保存する必要があるということ になります。 

 日々変化する自然動植物を対象とする種の保存は、以上のことを把握したうえで、生物学や自然環境保護の観点から適正な施策を講じられないと実効牲をもたな いということなのでございます。 

 また指定が市民の生活を制約する問題もございます。文化財保護条例の規定による指定を行った場合、当該の天然記念物は、その保護のために現状を変更することや保存に 影響を及ぼす行為が制限され、悪意或いは善意であっても罰則が適用されるという厳し い規定を置いててその所期の目的を達するようにしております。 

 そのため、その生息す る生態系を的確に把握し、保護すべき範囲を特定しなければなりません。そして生態系 を壊さない程度に衰亡を防ぐための措置や保護増殖のための施策、たとえば光を厭うホ タルに対し繁殖期に燈火を制限する、繁殖期に立ち入りを禁止するなど、地域住民のご 理解がないとできない施策が伴うという問題がございます。            

 本市といたしましては、ヒメボタルの保護は、単に条例に基づいて指定をすることに よって完結するということではなく、生息しているという現在の状態を、市民の皆様と 協力しあって、保存し、増殖をはかっていくことが重要であると考えておりますことから、指定の有無に関わらず、その方法は生物種の保存・増殖、自然環境保護といった観 点から行われることが最も実効性があると思量いたしております。 

 ヒメボタルとそれが生息する環境は、本市に残された希少な生物であり、貴重な自然 環境であるということは、評価されなければならず、これを行政と地域の皆様と協力して後世に引き渡すことが、重要な課題でありますことから、文化財保護の観点から、文化財としての評価、生息状況や生態系の把握、衰亡を防ぐための適正な施策の検討を行うとともに、現在地域の皆様方から頂戴しているご意見、生物の保存・増殖を行ってい る事例や学術研究機関等の調査例の収集を行い、ヒメボタルの保護にとって最も実効あ る方法を研究してまいりたいと考えておりますので、よろしくご理解賜りますようお願いします。 
 
 

 2)吹田市環境の保全等に関する条例第25条及び都市緑地保全法第3条第3項(ロ)の適用により、高町池周辺の千里緑地を「緑地保全地区」に定め、ヒメボタルの生息環境を適正に保全すること。 
 

<回 答> 

 高町池及びその周辺の千里緑地一帯については、吹田市でも数少ない原風景の一つで あると認識いたしています。その中で生息しているヒメボタルを保護することは重要な ことと考えます。 

 本市では、平成11年度(1999年度)にヒメボタル生息調査を実施し、その生息地域と して千里山田地区(高町池周辺)の千里緑地や海老が池周辺で、平均体長が7.5mmで関 西の地域に見られるものよりやや大きなヒメボタルが確認されているところでありま す。 

 また、千里緑地は、千里ニュータウン建設計画のなかで立案され、緑地として都市計画決定されています。 

 その目的は、住区の環境保全と快適性の向上であり、都市環境の整備及び改善、都市市景観の増進とともに緊急時の避難等に役立ってまいりました。 

 現在その整備・管理は、「都市公園法」に基づき緑化公園事務所で行っています。 

 ご指摘の都市緑地保全法では、同じく都市計画の手法を用い、動植物の生息地または 成育地も、規制により現状凍結的な側面が強い「緑地保全地区」の設定ができるように 法改正がなされましたが、行為の制限・損失の保証・土地の買取り等に対し市町村の行 財政能力から対処できない場合もあり、府下では、社寺林と屋敷林の3か所の指定に止 まっているのが現状です。 

 今後は、平成11年度に実施した調査結果や先進都市の保護の状況を参考にして、ヒメ ボタルの保護について調査・研究するとともに、望ましい方法について議論を重ねるな かで広く方策を検討してまいりたいと考えております。 

 また、「都市公園法」では、平成5年(1993年)に自然環境に対する意識の高まりと 自然とのふれあいに対するニーズに対処するため、生物とその環境及び共生者との関係 について観賞、観察することのできる自然生態園などの施設が新たに位置づけられています。 

 高町池周辺の千里緑地は、これに該当する資源を持った区域と認識しています。 

 本市では、人と生き物が共生できる緑地環境をつくるため、現在は、公園利用者の理 解を求めながら、除草の時期を調整したり、公園灯の減光などの対処により、ヒメボタルの生息環境に配慮した整備・管理を心掛けています。 

 今後も、さらなる管理方法の議論と研究を進めてまいりますので、よろしくご理解を お願いいたします。 

 

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