「種類」ということば
よくお客さんから「この花はどんな種類?」とか、「これはカサブランカの種類なの?」なんて訊ねられます。
この「種類」ということば、実はとても便利で曖昧です。
テッポウユリの品種「アビタ」を例にとって説明すると、「ユリ」は属名で、「テッポウユリ」は種名、「アビタ」は(園芸)品種名です。ようするに、カテゴリーを大きい順に並べると、属>種>品種の関係となります。この辺を意識せずに使えるので「種類」と言うことばは便利ですが、実に曖昧なことばでもあるわけです。
ユリの品種のグループ
ユリ属は、約96もの種(しゅ)に分類できるといわれます。この96の「種」は、原種(自然状態に自生する種)のことですから、それらをかけあわせた園芸種となると、膨大な数に上ります。
その園芸品種も、ユリの場合さらにいくつかにグループ分けができます。有名なところではオリエンタルハイブリッド系、アジアティックハイブリッド系(スカシユリ)、ロンギフローラムハイブリッド系(テッポウユリ)、LAハイブリッド系などが挙げられます。つまり、属>種>品種(グループ)名>品種名の関係となります。
話がややこしくなりましたが、ソルボンヌを例にすれば、「ユリ」という植物で、「オリエンタルハイブリッド」という園芸種のグループの中の「ソルボンヌ」という具合に理解していただければわかりやすいと思います。
ユリの名前「品種名」
至極当前ですが、ユリに限らず、品種名は一つの品種に一つしかありません。品種は花や葉の色や形のほかに、いろいろな特徴によって定義されます(かけ合わされた親の系統ももちろん含まれます)。
ですから、ユリにおいて「カサブランカ」といったら白い花であって、けして「ピンクのカサブランカ」などというものはありえません(余談ですが、チューリップにもカサブランカという品種があって驚いた覚えがあります)。
ここで販売業者の方へ。「ピンクカサブランカ」「イエローカサブランカ」はもうやめませんか? 消費者の方の混乱を招くだけだと思うのですが...。
ユリの品種の詳細
ユリの品種グループの代表的なものです。
・オリエンタルハイブリッド系 Oriental hybrid
カサブランカ、ソルボンヌ、シベリアなどが含まれます。 丈、花ともに大きく、香りがよいのが特徴です。一方で色の多様性は小さく、白、ピンク、赤などがほとんどです。90年代半ばに黄色のオリエンタル系ユリがオランダで育種されましたが、厳密にはオリエンタルトランペットと区別されます。(→OTハイブリッド)。
・アジアティックハイブリッド系(スカシユリ) Asiatic hybrid
主にアジア産のユリを親とした品種。オリエンタルユリと比較すると、香りはそれほどしませんが、黄、橙、赤、ピンク、白など、色がバラエティに富み、また葉の形なども品種によって差異が大きいのが特徴です。また、丈、葉、花ともに小振りで、葉の数は一般に多く付きます。最近ではオリエンタルのように大きな花を付ける物も多く、値段も比較して手頃なので、個人的にはおすすめです。
・ロンギフローラムハイブリッド系(テッポウユリ) Longifrolum hybrid
いわゆる「テッポウユリ」とよばれるものです。テッポウユリはもともと国産(沖縄原産)の純血種ですが、タカサゴユリなどと交配された園芸種のことをロンギフローラムハイブリッドと呼びます。花色は白で、長い筒状の花筒(かとう)を持つのが特徴です。シンテッポウユリなどはこの代表です。
現在ではピンク系のテッポウや、複色系のテッポウもありますが、日本市場では受け入れにくいようです。
・LAハイブリッド系 Longifrorum Asiatic hybrid
ロンギフローラムハイブリッド系(テッポウユリ)とアジアティックハイブリッド系(スカシユリ)のかけあわせです。売られ方はスカシユリと一緒くたにされがちですが、花はつぼみの状態から大きく長く、丈も大きくなります。花保ちもスカシユリより若干良いような感じを受けます。現在ではスカシユリよりも流通量が多いのではないでしょうか。個人的には「ダズール」などを見る限り、花の付き方と、つぼみの形はテッポウユリ譲りで、開いた花の形はスカシユリ譲りのようです。
・OTハイブリッド系 Oriental Trumpet hybrid
市場ではオリエンタルユリと区別せず流通していますが、正確にはこうよぶべきものが多々あります。現在主に出回っているものは、イエローウィンなど黄色系のものが多いです。黄色の色素を持たないオリエンタルに、色素を持つトランペットリリーをかけ合わせたものです。蕾がラッパ(トランペット)状なのが特徴です。
参考文献:農業技術体系
カサブランカが引退する日
ここまでの話で、「カサブランカ」とはなんのことを何を示すものなのかおわかり頂けたと思います。
しかし、この「カサブランカ」、有名なだけに名前が一人歩きしている感があります。つまりはオリエンタルユリの一つの品種に過ぎないのですが、まるでカサブランカという品種のカテゴリーがあるかのように、ひいてはユリ全体の代名詞のように思われている方が結構おられます。「ピンクのカサブランカをください」というのは笑い話ではなく、実際によくある話です。
しかしこれは仕方のないことかもしれません。多くの品種が作られ消えていく中で、品種名を名指しで買うことは非常に難しいですし、作り手の私たちでも覚え切れないほどですから。
また、カサブランカが有名になったのは、ちょうどバブルの頃と重なり、また花博などによるブームもあり、そのころは今では考えられない価格で取り引きされていたという経緯があります。逆に言えば、ユリ市場をグイグイと牽引していったオバケ品種なわけでもあるのです。こういったことから、あたかもカサブランカがユリの代名詞のように使われるようになったのだと思います。
日本市場の特殊な点の一つとして、カサブランカが大好きであることがあります。確かに栽培期間が長く、花も下向き、
すべての意味で「オバケ品種」なカサブランカ。このような品種はもう出ることはないのかもしれません(出てほしいとは思いますけど)。