「1997.05.13」復活の貴公子〜伊集院レイ〜

[No.0000000004]新里

・学校(5/13朝)

小波  |う〜む、今日は清々しい朝だなぁ…。
    |って、前にも一度あったような気がする…。
    |おお、そうだ、伊集院の顔を見てないんだ。
    |…まさか、また誘拐されたんじゃないだろうなぁ。
好雄  |おっす、小波!
小波  |お、好雄か。伊集院、知らないか?
好雄  |…知ってるけど。
小波  |どこにいる?
好雄  |居場所は知らない。
小波  |…知っているって言ったじゃないか。
好雄  |伊集院は知ってるけど、居場所は知らん。
小波  |…じゃぁな。
好雄  |お〜い、お茶目な冗談だよ。
小波  |…で、伊集院の居場所は知らないんだな?
好雄  |ああ、今日は休みみたいだぜ。家にいるんだろ。
小波  |う〜む…。
好雄  |なんだよお前、随分と友達思いな奴になっちまって…。
小波  |昔からそうだよ。
好雄  |…。
小波  |それより、伊集院の奴、昨日も様子が変だったし…。
    |俺の家に、電話してきたんだぜ?
好雄  |伊集院が?
小波  |しかも、電話をしてきたくせに用はないとか言うし…。
好雄  |金持ちのプレッシャーでおかしくなったんじゃないか?
小波  |伊集院が?
好雄  |…それは想像できんな。
小波  |伊集院に何かあったのかな…。
好雄  |そう言えば、俺も昨日から何か調子が…。
小波  |お前、本当に昨日のこと覚えてないのか?
好雄  |…だから、何のことだよ?
小波  |伊集院のことで分かったことがあるとか…。
    |最近の伊集院の様子が変なことと関係あるんじゃないのか?
好雄  |う〜ん、本当に俺がそんなことを言ったのか?
小波  |おいおい、本当に覚えていないのか?
好雄  |…。
小波  |…やめよう、何となく不毛な気がする。
好雄  |ああ。
小波  |とりあえず、伊集院の方は見舞いにでも行ってやるか。
好雄  |俺、パス。
小波  |何でだよ、友達甲斐のない奴だなぁ。
好雄  |俺はね、男には興味はないの。
小波  |入学式の日に伊集院の電話番号を俺に教えたのは誰だっけ?
好雄  |え…さ、さぁな…。誰だっけ?
小波  |まぁいい、嫌だって言うんだったら俺だけで行くよ。
好雄  |お前って、誘拐事件の時も飛んで行ったよな。
小波  |ああ、そうだけど。
好雄  |…女の子にも男にもマメな奴なんだな。
小波  |ふっ…人脈は将来の宝だからな…。
好雄  |何を言ってやがる、伊集院なんかと友達になっても、将来…。
小波  |…。
好雄  |さて、お見舞いは何時ごろ行く?
小波  |ガクッ。
好雄  |何か持って行ったほうがいいかな?
小波  |あのなぁ…。

・伊集院家正門前

小波  |う〜む、相変わらず大きい家だ…。
好雄  |相変わらずって…普通はそうだろうな。
小波  |…。
好雄  |で、お前、中に入ったことあるのか?
小波  |クリスマスパーティーの時にな。
好雄  |え、お前、招待されてたんだ。
小波  |あれ、好雄は?
好雄  |…ふん、門前払いだよ。
小波  |そうか、もう少し、おしゃれにも気を付けないとな。
好雄  |ほ、ほっとけ!
小波  |呼び鈴はどこにあるのかな?
好雄  |こんな屋敷だ、インターホンくらいあるだろ。
    |建物までえらい距離があるしな。
小波  |あ、呼び鈴があった。
好雄  |インターホンはないのか?
    |…なんだ、金持ちのくせに、妙なところでケチってるなぁ。
小波  |とりあえず、ボタンを押してみよう。
好雄  |爆発したりしないだろうな?
小波  |あははは、紐緒さんの家ならありそうだけど。
    |ポチッ
好雄  |インターホンがないってことは、あの屋敷から誰かが
    |出てきてここまで来るって事か?
    |…えらく待たされそうだな。
外井  |何か、ご用でしょうか?
小波  |うわっ!
好雄  |い、いつの間に…。
外井  |おや、あなた様は…。
小波  |えっと、伊集院が学校を休んだので、お見舞いに…。
好雄  |…ん?
外井  |そうですか、しかし、レイ様は今は誰にも会いたくないと申してますので…。
小波  |う〜ん、仕方がないな…。
    |じゃぁ、小波と早乙女が見舞いに来たとだけ伝えてください。
外井  |かしこまりました。
好雄  |あ、ちょっと…。
外井  |はい、何でしょうか?
好雄  |気のせいかも知れないけど、俺、あなたと会ったような気が…。
小波  |クリスマスパーティーで追い返されたって…。
好雄  |いや、そうじゃなくて、つい最近…。
    |あれ、思い出せないぞ…。
小波  |気のせいじゃないのか?
好雄  |う〜ん、そう言われればそんな気も…。
小波  |あ、そうだ、昨日お前、昼休みに倒れて伊集院の家の病院に
    |送られたから、それで会ったんじゃないか?
好雄  |…えっ?
外井  |…あ、い、いや、その。
好雄  |あ、何だかそんな気がしてきた…。
    |そう言えば、何か俺、興奮してたんだよな。それで…。
外井  |あの、た、立ち話も何ですから、屋敷に入りませんか?
小波  |え?…でも、伊集院は会わないって言っているのに。
外井  |いえいえ、せっかく来ていただいたんですから、お茶でも…。
小波  |…それじゃ、お言葉に甘えて。
好雄  |え〜っと、何を言おうとしてたんだったか…。う〜ん…。
小波  |おい好雄、行くぞ。
好雄  |ちょっと待ってくれ、う〜ん…。
小波  |いいから行くぞ。

・伊集院邸内

好雄  |すっげ〜。やっぱ金持ちは違うなぁ。
小波  |あんまりきょろきょろするなよ。
好雄  |お前は来たことがあるかも知れないが、俺は初めてなんだよ。
小波  |俺は初めてでもきょろきょろしなかったぞ。
好雄  |すっげぇ絨毯だなぁ。
小波  |寝るんじゃないぞ。
好雄  |…それもいいかも知れない。
外井  |こちらの部屋でお待ちください。
小波  |伊集院には会えない?
外井  |…はい、多分。
小波  |そっか、仕方ないな。
外井  |あ、そちらの方は、ちょっと来ていただけますか?
好雄  |え、俺?
外井  |はい。
好雄  |…何で?
外井  |当館へ初めてお越しのようですから、案内など。
好雄  |いいよ、別に…。
外井  |まぁ、そう言わずに…。
小波  |行けばいいじゃないか、好雄。
外井  |さぁさ、行きましょう。
好雄  |ちょっと待て、小波も…
小波  |いや、俺はこの部屋で待ってる。
    |歩くだけで疲れそうなくらい広そうだからな…。
好雄  |は、薄情者…。
小波  |な、何でそうなるんだ…。
外井  |それでは、行きましょう…。
小波  |やれやれ…。
    |それにしても、やっぱりすごい館だなぁ…。
    |日本の土地事情とか、どうなっているんだか…。
    |ん、トイレに行きたくなってきたな。
    |トイレはどこだろう?
    |確か、クリスマスパーティーの時に行ったんだけど…。
    |…。
    |この廊下をまっすぐ行って…。いや、違うな。
    |じゃぁ、こっちの方へ行って…。階段…。
    |あれ、階段なんて昇ったかなぁ。
    |また廊下だ。まっすぐ行って…。
    |だんだん分からなくなってきたぞ。
    |もしかして、お約束の道に迷ったって奴か?
    |…となると、伊集院に会ったりして。
    |まさか…。
    |あ、バルコニーがある…。
    |誰かいるみたいだ。
    |あの〜、済みません…。
??? |えっ?
小波  |(うわ、綺麗な女の子だな…。)
    |あの、道に迷っちゃったんですけど。
??? |あ、あの…。
小波  |あ、済みません、脅かしちゃって…。
    |(でも、顔を背けることはないのに…。)
    |…あ、あの、トイレは、どちらでしょう?
??? |少々、お待ちください…。
小波  |あ、はい…。
    |…。
小波  |(…少々って言ってたけど、遅いなぁ。)
    |(さっきの人、どこへ行っちゃったんだろう。)
伊集院 |そこで何をしている、庶民。
小波  |わっ、伊集院!…何でここに?
伊集院 |ここは僕の家だっ!
小波  |…何だ、元気そうじゃないか。心配したのに。
伊集院 |心配?…そうか。
小波  |それより、さっきここですごい綺麗な人に会ったんだけど。
伊集院 |き、綺麗な人?
小波  |顔はよく見えなかったけど、背が高くて綺麗な人。
伊集院 |見間違いじゃないのかね?
小波  |見間違えるわけないじゃないか。
伊集院 |なにせ、小波だからな。
小波  |ひどい言われようだな。
伊集院 |はっはっは…。
    |昔、このバルコニーで、失恋して飛び下りた女性がいたそうだ。
    |もしかすると、その亡霊かも知れないな。
小波  |ぼ、亡霊?
伊集院 |よほど恋をする気持ちが強かったんだろう。
    |…今でもその相手のことを思い続けているんだろうな。
小波  |や、やめてくれよ。
伊集院 |何だ、こういう話は苦手なのかね?
小波  |いや、そういうわけじゃないんだが…。
    |それより、学校を休んだんだろ、寝てなくていいのか?
伊集院 |別に病気で休んでいたわけでは…。
    |いや、もう大丈夫だ。
小波  |そうか、それならいいけど。
伊集院 |君は、本気で僕のことを心配してくれているのかね?
小波  |…ん、まあね。
伊集院 |そうか…。
小波  |何だよ、神妙な顔をしちゃって…。らしくないぞ。
伊集院 |いや、ありがたいと思っているよ…。
小波  |おいおい、お前、ホントに伊集院…だよな?
伊集院 |友として見舞いに来てくれる人がいるというのは嬉しいものだな。
小波  |俺の他には誰も来てないのか?クラスの女子は?
伊集院 |来ていない。
小波  |来てないって…薄情だなぁ。
    |入学式の頃は、あんなにキャーキャー騒いでいたのに…。
    |あ、それで俺が妨害したんだっけ?
伊集院 |いや、女の子に嫌われたのは、僕が庶民を見下すような態度を
    |取っていたせいだろう…。
小波  |だから、俺が電話で言ってあげたのに…。
伊集院 |…そうだったな。
小波  |でも、俺の知ってる何人かの女の子は、ちゃんとお前の不器用さを
    |分かっていて、ちゃんと接してくれてるだろ?
    |ピクニックとか、海へ行ったときとか…。
伊集院 |そうだな。しかし、心を許せる友は…。
小波  |そうか、意外に寂しい奴だったんだな、伊集院って。
伊集院 |慰めはいらん。
小波  |あ、それで俺が失敗したりすると声をかけてきたりしたんだな。
    |何だよ、構って欲しいなら素直に…。
伊集院 |そ、そんなことはない。
小波  |…っと、もっと素直になればいいのに。
伊集院 |…そうだな。
小波  |あれ、やけに素直だな。
伊集院 |たまにはそんな日もある…。
小波  |…。
伊集院 |ところで、君は手洗いに行きたいのではなかったかね?
小波  |あ、そうだ、忘れてた。
伊集院 |呆れた奴だな。普通は忘れないぞ。外井に案内させよう。
    |無線で呼んでやるから少し待つがいい。
    |外井、聞こえるか。
外井  |はい、レイ様…。
伊集院 |ちょっと来てくれ。
外井  |あ、今、手が放せません…。
    |昨日の少年のプロテクトが破れそうなので、再度…。
伊集院 |わぁ〜っ!
外井  |レ、レイ様?
伊集院 |とにかく、急いでこっちに来てここにいる小波君を案内してくれ。
外井  |あっ…は、はい、かしこまりました…。
伊集院 |ふぅ…。
小波  |…プロテクトって何だ?
伊集院 |いや、あの…伊集院家で作っているコンピュータソフトだよ。
小波  |でも、外井って人は好雄の案内をしていたんじゃ…。
伊集院 |案内はメイドにさせているんだろう。
小波  |あ、美味しい…。
伊集院 |…。
小波  |…いや、それより、トイレ行きたいなぁ〜っと。
伊集院 |仕方がない、僕が案内してあげよう。
小波  |最初からそうすればいいのに…。
    |(でも、何で俺がトイレに行きたいって知ってたんだろう。)

・伊集院家豪華応接室

伊集院 |さて…。外井、お茶をいれてくれたまえ。
外井  |かしこまりました。
好雄  |う〜ん、何か頭がボ〜ッとする…。
小波  |いつもの事だろ?
好雄  |ひどい言われようだな…。
小波  |それにしても、古式さんもお見舞いに来るなんて。
古式  |幼なじみですから…。
好雄  |実は、幼なじみと言いつつ実は…。
小波  |そんなに簡単なら誰も苦労しないぞ。
古式  |そう言えば、小波さんは藤崎さんと幼なじみでしたねぇ。
小波  |あれ、クラス違うのによく知ってるね。
古式  |え、ええ、まぁ…。
小波  |誰から聞いたんだろう。
好雄  |伊集院だろ…。
小波  |そっか、幼なじみだから、話ぐらいするか。
好雄  |鈍い、鈍すぎるぞ、この男は…。
小波  |それにしても、伊集院が元気で良かった…。
古式  |本当ですね。
好雄  |こういうとき、友達がいないと寂しいよな。
伊集院 |友達?
好雄  |見舞いに来てくれる友達だよ。
伊集院 |…そ、そうだな。
好雄  |入学式の直後の伊集院って、すごく近寄りがたかったけどな。
伊集院 |高貴なオーラをまとっていたんだろう。
好雄  |い、いや…何か、すごく嫌な奴だったよな…。
    |…と言うと、今は嫌な奴じゃないような言い方だな。
古式  |私から見ても、随分と変わられたような感じです。
伊集院 |そ、そうかね?
小波  |さて、お茶も飲んだし、伊集院が無事なのも分かったし、帰るか。
好雄  |そうだな。
伊集院 |も、もう帰るのかね?
小波  |だって、いつまでいても仕方がないだろう。
伊集院 |待ちたまえ、ついでだ、超豪華高級料理を食べていかないか?
小波  |いや、遠慮しとくよ。
好雄  |俺は食うぞ。
伊集院 |小波君、君も食べて行ってくれたまえ。
    |ゆかり、君も引き止めて…。
古式  |あの〜。
小波  |…。
古式  |何と申しますか…。
小波  |…。
古式  |一緒に…。
小波  |う〜、まいりました。
古式  |…え。
小波  |それじゃ、お言葉に甘えるよ、伊集院。
伊集院 |よし、外井、準備を頼む…。
好雄  |何か、楽しそうじゃないか?

・伊集院の部屋(夜)

伊集院 |彼が見舞いに来てくれるとは…。
    |友達、か…。
    |そう言えば、昔は、友達なんていなかったな。
    |中学のときは、家の名前を背負っていたから友達なんていなくて、
    |家の付き合いの縮尺みたいな人間関係だった…。
    |ゆかりは…幼なじみだし。
    |…。
    |そうだ、友達でいい…。
    |駒人との今までが全部が嘘だったわけじゃない。
    |キャンプへ行ったこととか、海へ行ったこととか…。
    |…そうだ!
    |最初に電話をくれたとき…あれは彼の意志だったはずだ。
    |いたずら電話だったかも知れないけど、催眠術なんかじゃなく、
    |小波駒人の意志で電話をくれたんじゃないか…。
    |ああ、あの電話で庶民に対する考え方が変わったんだな…。
    |彼にとっては単なるいたずらだったとしても…。
    |…それでもいいじゃないか。
    |彼のおかげで今の自分がいる…。
    |ああっ…。何て素晴らしいんだ…。
    |小波駒人…。(ゴロゴロ…)
    |…。
    |ふぅ〜。
    |さて、明日は小波駒人に会いに学校に行くとするか!
    |ふっふっふ…。
    |は〜っはっはっはっは…。