「1996.11.12」新たなる決意〜古式ゆかり〜

[No.0000000018]高野

・学校(放課後)

古式  |その日、急にレイちゃんから用があるから校門で待っていて欲しいと言わ
れて、
(ナレ)|私は少し憂鬱な気分のまま校門へと急いだのでした。
    |雨こそ降らないものの、空はどんよりとして私の気分そのままのようでした。
    |約束の時間に少し遅れて校門に着きましたが、レイちゃんの姿はまだあり
ません
    |でした。
    |そして…、
小波  |あれ、古式さん。
古式  |あ、小波さん…。
小波  |今、帰るところ?
古式  |ええ、まぁ、そうですけれども…。
小波  |じゃぁ、一緒に帰らない?
古式  |…。あの〜。
小波  |…ん?
古式  |私、待ち合わせをしておりますので、済みませんが…。
小波  |そ、そう、それじゃ、お先に…。
伊集院 |や、やぁ、君たちも帰りかね?
小波  |な、何だよ、伊集院か…。
古式  |…。
伊集院 |僕は用があるので帰らせて貰うが、君たちはこれから一緒に
    |仲良く帰るのかね?
小波  |え?…いや、古式さんは用があるから…。
伊集院 |何を言っているんだ、君を待っていたのがわからないのかね。
    |乙女心の理解できない奴だな…。
小波  |古式さん、そうなの?
古式  |え〜と…。
小波  |違うよね。そんなわけないじゃないか、伊集院。
伊集院 |と、とにかく、僕は帰るから、君たちも帰りたまえ。
小波  |何でそんなことをお前に指図されなきゃいけないんだよ。
伊集院 |い、いいから、早く二人で帰りたまえ!じゃ、失礼するよ。
小波  |じゃぁな、伊集院。
    |じゃ、古式さん、一緒に…帰る?
古式  |…。

・帰り道

小波  |…でもさぁ、変な奴だよなぁ伊集院って。急にやってきて勝手なこと言って
    |自分だけ先帰っちゃうし。ま、金持ちのやることは庶民には伺え知れないっ
    |てことかな。ははは…。
古式  |…。
小波  |あ、ごめん。古式さん家も金持ちだったっけ。
    |だめだな俺って…気が利かなくてさ。ははは…。
古式  |…。
小波  |…えっと、そういえば古式さん誰かと待ち合わせとか言ってたけど…。
    |よかったの?俺と帰っちゃってさ。
    |ま、俺は古式さんと一緒に帰れたから嬉しいけどさ…。
古式  |…。
小波  |…、古式さん。何か怒ってる?
古式  |…。
小波  |古式さん?
古式  |…。
小波  |…、こ・し・き・さん!
古式  |はい。なんでしょうか?
小波  |いや、さっきから話しかけてたんだけど、返事がないからどうしたのかな
    |と思ってさ。
古式  |それは申し訳ありませんでした。
    |少し考え事をしておりましたので、気がつきませんでした。
    |…どんなお話だったのでしょうか。
小波  |(^^;;;
    |…古式さんって可愛いね、って話さ。
古式  |…。(ぽっ)
    |そんなことを殿方から面と向かって言われると…照れてしまいます。
小波  |あはは。ホントだ。古式さん、顔真っ赤だよ。
古式  |からかわないでください。
小波  |はは…。でさ、さっきは誰を待ってたの。校門でさ。
古式  |…はい、実は…。いえ、いいんです。待っていても来れない人ですから。
小波  |来れない…?人を待ってた?それってどういう…。ははぁ〜ん、わかった。
    |古式さん彼氏と喧嘩でもしてるんじゃない?でさ、彼を待って仲直りしようと
    |思ったんだけど、いつまでも来なかったから怒ってるんだ。そうでしょ?
古式  |私、お付き合いしている殿方なんていませんけれど。
小波  |またまたぁ。隠さなくたっていいのに。(^^)
古式  |小波さんに隠し事なんてできません。
    |レイちゃんと待ち合わせをしてたのだって、隠したのではなくて言わなかった
    |だけですし。
小波  |レイちゃん?レイちゃんって…伊集院レイ?
古式  |そんなこといっていませんけれど。
小波  |だって今、レイちゃんって。
古式  |私とレイちゃんが幼なじみだなんてことは言ってません。
小波  |えっ?古式さんと伊集院って幼なじみなの?
古式  |…。そういう意味に聞こえましたでしょうか。
小波  |(^^;
    |じゃ、じゃさ、どうして伊集院は一人で帰っちゃったのかなぁ。
    |古式さんと待ち合わせしたなら一緒に帰ればいいのに…。
好雄  |この、すかたぁ〜ん!!(ばしっ)
小波  |!痛ってぇなぁ、好雄ぉ。何するんだよ、いきなり。だいたいどこから涌いて
    |出たんだ。
好雄  |小波ぃ、おまえって奴ぁよぉ…。いったいどういう神経してんだ?
小波  |どういうって、じゃおまえ自分の神経見たことあるのか。
好雄  |誰が生物学的な話をしてる。おまえのその無茶苦茶な神経回路の話をしてるん
    |だ。
小波  |神経回路って、俺は紐緒さんの改造人間じゃないぞ。
好雄  |だれがそんなモンの話をしてるぅ。だいたいおまえは…。
紐緒  |そんなモン、とは聞き捨てならないわね。
好雄  |(つーっ)ひ、紐緒さん。なぜここに…。
紐緒  |なぜもハゼもないわ。好雄君には人体改造の難しさについて少し学習が必要な
    |ようね。
古式  |あの〜。
紐緒  |好雄君、いらっしゃい。私の研究所はすぐそこよ。
好雄  |こ、小波、俺はおまえの友達だよなぁ…。
小波  |そうだけど、俺って紐緒さんとの方が仲いいもんね。
紐緒  |ば、馬鹿ね。(照)
古式  |あの〜。
好雄  |お、おまえって奴は…。裏切り者ぉ〜。
紐緒  |好雄君、来るのよ。科学の素晴らしさを教えて上げるわ。ふふふ…。
好雄  |ひぃ〜。
小波  |元気でな、好雄。
古式  |あの〜。
小波  |えっ?あ、古式さん、どうかしたの?
古式  |私、気分がすぐれませんので、これで失礼します。
小波  |え?それなら送るよ。あ、古式さん!
    |(たたた…)
    |
小波  |行っちゃったよ。ちぇ、好雄のお陰で散々だぜ。

・古式家(夕刻)

古式  |だだいま帰りました。
琴乃  |お帰りなさいませ。お鞄をお持ちいたします。
古式  |…。
琴乃  |いかがなされました。ご様子がすぐれないようですが…。
古式  |なんでもありません。大丈夫です。
琴乃  |左様ですか。
    |…先ほど、朝日奈様よりお電話がございました。
    |それからお手紙はいつも通りに…。
古式  |ありがとう。下がって結構です。
琴乃  |? はい。それでは失礼いたします。
古式  |(…レイちゃん。あんなにわざとらしく小波さんに私と下校するように仕
向ける
    |(なんて…。あれで気を利かせてるつもりならあんまりだわ。
    |(あんな…あんな泣きそうな…辛そうな顔して…。
    |(それほどに小波さんへの想いがあるのならばはっきりと自覚してほしい…。
    |(そうでなくちゃ、私、レイちゃんと喧嘩もできない…。
    |
    |
    |
    |
    |
    |
    |…レイちゃんの…ばか。
    |(しばらくして…)
電話  |Trrr…Trrr…Trrr…Trrr…
    |かちゃ
古式  |…はい。古式ですけれど…。
朝日奈 |あ、ゆかりぃ?夕子だよ。
    |やっと帰ってきた、さっきも電話したんだけど出ないんだから。
古式  |それは申し訳ありませんでした。しばらく前に帰っておりましたが、少し眠っ
    |てしまっていたようです。…制服がしわになってしまいました。
朝日奈 |どうしたの?珍しいじゃない、ゆかりが着替えもしないで寝込んじゃうな
んて。
    |気分、悪いの?最近なんか元気ないしさぁ、心配してたんだよ。何かあったん
    |じゃないかって。
古式  |…。
朝日奈 |あたしでさ、よかったらいつでも相談してよね。力になるから。
    |あたしとゆかりはさ、友達なんだから。
古式  |…はい。
朝日奈 |じゃ、元気だしてね。またね、bye-b…。
古式  |あの…。
朝日奈 |ん、なに?
古式  |あの…、夕子さんに聞いてもらいたい事があるのですが…私の家に来てい
ただけ
    |ないでしょうか。
朝日奈 |(ちらっ)…そうだね。もうすぐ門限だモンね、ゆかりン家は。
    |わかったわ。今から行くから…。
古式  |ありがとうございます。それではお待ちしております。
    |(さわさわさわ…)
古式  |(日が沈んでしまうと、風も冷たく感じるようになりました。
    |(もうすぐ、鈴虫が鳴くようになるのですね。
    |(…こんな気持ちのまま、あの方の誕生日を迎えたくはないものですね。
    |(編みかけのマフラー…、急がないと間に合わないかも知れません。
    |(ですが、こんな気持ちを編み込んだのではなんにもなりませんもの…。
    |(…
    |(…
    |(レイちゃんの…ばか。
琴乃  |失礼いたします。
    |お嬢様、朝日奈様がおみえでございます。
古式  |わかりました。こちらへお通ししてください。
琴乃  |かしこまりました。
琴乃  |こちらでございます。
朝日奈 |うん、ありがとう。
    |(からっ)
    |ハイ!ゆかり。
古式  |夕子さん、わざわざすみません。
琴乃  |失礼いたします。
古式  |琴乃さん。お食事を2人分、こちらへお願いします。
    |夕子さん、お食事まだでしょう?
朝日奈 |へへぇ、実はお腹ぺっこぺこなんだ。サンキュ。
琴乃  |かしこまりました。
古式  |お願いします。
    |…お食事時でしたのに、申し訳ありませんでした。
朝日奈 |いいってぇ、ゆかりとあたしの仲じゃない。それにさ、ゆかりン家の御飯って
    |美味しいモンね。あはは…。(^^)
古式  |古式家の誇る、超豪華料理を召し上がっていってくださいね。
朝日奈 |あはは…、それじゃ伊集院くんだって。(^^)
古式  |うふふ…。(^^)
琴乃  |失礼いたします。お食事をお持ちいたしました。
古式  |はい、お願いします。
朝日奈 |わぁ〜っ、美味しっそう!
古式  |どうぞ遠慮しないで召し上がって下さいね。
    |もっちろん!いただきまぁす。
朝日奈 |ごちそうさま。美味しかったぁ。
    |…ところでさ、聞いて欲しい話って、なに?
古式  |はい。そのことなんですが…夕子さんには私に好きな殿方がいることをお話し
    |しましたよね。
朝日奈 |うん、聞いたよ。最初は手紙で教えててくれたんだよね。その後も彼がどうし
    |たって話は聞いたけどぉ、その彼が誰かって話は聞いてないけどね。
古式  |それは…まだお話しできません。
    |実は私、その殿方のことがいろいろと知りたくて友達に調べてもらおうと思っ
    |たのです。
朝日奈 |へぇ〜、初耳ぃ。そんなこと頼める人がいたんだぁ。
古式  |お気を悪くしないでくださいね。訳あってその人の方が調べやすいと思ったも
    |のですから…。
朝日奈 |ま、いいけど。それで、彼のこと聞き出せたの?
古式  |それがですね、頼んだ相手がその殿方を好きになってしまったようなんです。
朝日奈 |えっえ〜!それってまずいんじゃないの。その頼んだ相手の娘だって、ゆ
かりが
    |好きな人だって事知ってるんでしょう。それなのに…ひっどおい奴ぅ。
古式  |私も意外でしたので少し驚きましたし、悔しいと思いました。
朝日奈 |そりゃそうよ。ゆかりも怒って当然だよ。
    |だいたいそういう奴に限って身の程を知らないっていうか、軽い奴だった
りする
    |んだぁ。ゆかりがさぁ、がつぅんと言ってやればいいんだよ。ってゆかりのパ
    |ターンじゃないか、そういうのって。
古式  |はい、私はそう言うのは苦手ですが、今回ばかりは引き下がるわけにもい
きませ
    |んし、その方とも喧嘩別れするようなことにはなりたくないんです。
朝日奈 |ふ〜ん。じゃ、結構仲いい友達なんだぁ。…だれだろ?
古式  |その方については少々事情が複雑でして、どなたなのかお教えするわけに
はいか
    |ないのが心苦しいのですが…。
朝日奈 |ま、いいって。ゆかりがそういうのならそれでいいよ。
    |…で。するとぉ、ゆかりはその娘と彼を奪い合うつもりなのね。
    |なおかつ、その娘にはやんわりと言い含めたい、と。
古式  |夕子さんの言い方だといささか過激な気がしますが、その通りです。
朝日奈 |…でっさぁ、その娘って、もう彼にアタックしちゃってるわけぇ?
古式  |それが、自分がその殿方を好いていることに気がついていないようなのです。
    |殿方への態度とか言葉使いからそれとなく分かるのですが、それとなく言
うと強
    |く否定するばかりで…。
朝日奈 |ふ〜ん。じゃぁ、その娘に、彼が好きなんだって事を自覚させるのが最初
かな。
    |だって、そうしないと話がこんがらかる一方だモンね。
    |そうそう、ゆかりがなんかきっかけ作って、その娘にそれを自覚させれば
いいの
    |よ。
    |タイミングよくね。…例えばぁ、ゆかりとその娘が二人でいる時に上手く
彼が来
    |てくれたときとかに、ゆかりがちょっと彼に甘えてみたりして彼女の機嫌
を逆な
    |でてぇ、不機嫌になったところへ「そうして不機嫌になるのは彼が好きだ
からな
    |のよ」とかびしっと言っちゃうの。
    |そこへゆかりの第2弾。「私たちこれからはライバルね」攻撃で追い打ち
を駆け
    |るの。いい?その時にっこり笑顔で言うのがポイントよ。張り付いたよう
な笑顔
    |じゃダメ。
    |ゆかりは余裕をちらつかせなくちゃ。それでいて嫌みっぽくならないよう
に気を
    |つけるの。
古式  |難しいものですねぇ。私にできるでしょうか。
朝日奈 |ゆかりなら大丈夫よ。普段通りにしてればいいの。(^^;
古式  |そうでしょうか。
朝日奈 |大丈夫。
    |そこまではっきり言ってやって、それでもうだうだ言うようだったらばしっと
    |やっちゃえばいいのよ。ってゆかりには無理かなぁ。
    |でもね。それくらいやってもいいんだよ、ゆかり。
    |必要なのに殴れない様じゃ、ゆかりの格が下がるからね。
古式  |…うふふ。いつもと逆ですね。夕子さんに格式の話をされるなんて。
朝日奈 |そりゃそうよ。こういうことは私の方が上手なんだからね。(^^)
    |相手がゆかりの本当の友達なら、それで分かってくれるよ。
    |ゆかりの気持ちをね。
    |その後は、成り行きかなぁ。
    |だって、二人がライバルだっていっても、その彼には他にもライバルがい
るかも
    |しれないしね。
古式  |そうですねぇ。ずいぶんと忙しそうにしている方ですから。
朝日奈 |そなの?じゃぁ、ゆかりもがんばらなくっちゃね。
古式  |どなたにも負けないように頑張りたいと思います。
朝日奈 |そうそう。気合いだよ、ゆかり。
古式  |はい。今夜はありがとうございました。なんだか元気がでてきました。
朝日奈 |どぉいたしまして。
    |でっさぁ、明日の3限目の英語なんだけどあたしご指名入ってるんだぁ。
    |ゆかり、教えてくれない?(^^;
古式  |いいですよ。それくらいはおやすいご用です。(^^)

・学校(翌日の朝)

古式  |…。
    |(あれは…、レイちゃん。ずいぶんとご機嫌のようですけれど、まさか昨日の
    |(一件で私が機嫌直したとでも思っているのではないでしょうね。
    |(それならそれで、私にも考えがありますよ。
    |(ムスッ!)
伊集院 |ギクッ…。
古式  |おはようございます、伊集院さん…。
伊集院 |あ、あの、まだ…怒ってる?
古式  |はい。
    |(やっぱり。当てが外れたことを少しは思い知ってくださいね。
伊集院 |…な、なぜ?
古式  |ご自分の胸に聞いてみてはいかがですか?
伊集院 |そんなことを言われても…。
古式  |わからないのですか?
伊集院 |…。
古式  |…。
    |(おわかりにならないのなら、わからせてさしあげましょう…。
    |(にこっ)