「1996.09.13」風が運んできたものは〜紐緒結奈〜

[No.0000000013]柴田

・ホテルのロビー、修学旅行二回目の自由行動の日(5日目)

小波  |さて、今日は自由行動か。
紐緒  |小波君。私に挨拶は?
小波  |えっ、ああ。 紐緒さん、おはよう。
紐緒  |あなた…。もしかして一人?
小波  |ああ、そうだよ。
紐緒  |ポケットのなかに誰かを隠していたりしない?
小波  |紐緒さん、無茶言わないでよ。^_^;
紐緒  |だったら、私が一緒に 行ってあげるわ。
小波  |え?でも紐緒さんといっしょに出かけるとまたなんちゃらメモリア
    |ルが……。
紐緒  |そういうことはもうないわ。洗脳はあきらめたから…。
小波  |え?洗脳?
紐緒  |あっ。
小波  |あれって洗脳装置だったの?
紐緒  |もちろん違うわ。
小波  |紐緒さんは嘘をつかないんだよね?
紐緒  |……。
小波  |あれって洗脳装置だったの?
紐緒  |……。
小波  |ねぇってば。
紐緒  |……嘘はつかないとは言ったけど、黙秘しないとは言っていないわ。
小波  |洗脳装置だったんだ。
紐緒  |……。
小波  |なんでそんなことを…。
紐緒  |黙秘すると言ったら黙秘するのよ。
小波  |……。
紐緒  |……。
小波  |……。
紐緒  |……。
小波  |ま、いいや。
紐緒  |え?
小波  |洗脳されたわけじゃないし別にいいや。
紐緒  |小波君……。
小波  |ねぇ、行こうよ。
紐緒  |そ、そうね。行くわよ。

・ホテル前

小波  |で、紐緒さん、どこに行くの?
紐緒  |クラーク博士の像を見に行くわよ。
小波  |クラーク博士の像?紐緒さんにしてはずいぶん普通の……。
紐緒  |あなた、私のことをなんだと思っているの?
小波  |マッドサ……いや、あの、可愛い女の子だなぁと…。
紐緒  |な、何を突然言い出すのよ。
小波  |いや、その……。とにかくクラーク博士を見に行かなくちゃ。
紐緒  |クラーク博士じゃなくてクラーク博士の像よ。

・クラーク博士の像の前

小波  |これが有名なクラーク博士か…。
紐緒  |クラーク博士じゃなくて、クラーク博士の像だって言ってるでしょ?
小波  |それはそうと、ボーイズ ビー アンビシャス、少年よ大志を抱け。い
    |い言葉だよね?
紐緒  |どんな志を抱いているかにもよるわね。たいしたことのない大志なら
    |抱かない方がよっぽどましよ。
小波  |紐緒さん、それって洒落?
紐緒  |そ、そんなはずないでしょ?単なる偶然よ。
小波  |ふーん、ま、いいけど。
紐緒  |さあ、次に行くわよ。
小波  |え?次って?
紐緒  |もちろんアドルフ ヒットラーの像よ。
小波  |え?そんなのこの北海道にあるの?
紐緒  |もちろんよ。あなた知らないの?勉強不足よ。
小波  |そうかなぁ。
紐緒  |ぐずぐずしないで。さ、行くわよ。

・アドルフ ヒットラーの像の前

小波  |げげっ、本当にアドルフ ヒットラーが…。
紐緒  |これは本人じゃなくての像だってさっきから言ってるでしょ?
小波  |いや、それはそうなんだけど…。
紐緒  |少女よ、野望を抱け。良い言葉よね。
小波  |え?それってヒットラーの言葉?
紐緒  |あなたって本当に無知ね。少しは勉強しなさい。
小波  |いや、確かに無知かも知れないけど…。
紐緒  |さあ、次に行くわよ。
小波  |次って?
紐緒  |もちろんジンギスカンの像よ。
小波  |え?ジンギスカン?
紐緒  |そうよ。北海道と言えばジンギスカンに決まっているでしょ。
小波  |それはそうなんだけど…。
紐緒  |ぐずぐずしないで。さ、行くわよ。

・札幌ビール園の前

小波  |こっ、ここは…。
紐緒  |何をしているのよ。さあ入るわよ。
小波  |紐緒さん、ここは違うよ。
紐緒  |何を言っているのよ。札幌でジンギスカンと言えばここに決まってい
    |るじゃない。
小波  |それはそうなんだけど、でもそれは別のジンギスカンで…。
紐緒  |別も何もないわ。さ、入るわよ。
小波  |ああっ、紐緒さんやめておいた方が…。

・札幌ビール園の中

紐緒  |こっ、これは…。
小波  |ねっ、紐緒さん。ジンギスカン違いだったでしょ?
紐緒  |ジンギスカン違い?
小波  |いや、だからあの焼き肉みたいのがジンギスカン鍋だから…。
紐緒  |ジンギスカン鍋?
小波  |紐緒さんひょっとしてジンギスカン鍋を知らなかった?
紐緒  |……ゆっ許さないわ。
小波  |え?
紐緒  |私に無断で偉大なジンギスカンの名前を鍋なんかにつけるなんて。許
    |さないわ。
小波  |そんなことを言っても…。わっ、紐緒さん何をするつもり。
紐緒  |許さないと言ったら許さないのよ。
小波  |うわぁ、ちょっと待ったぁ。
紐緒  |何をするのよ。離しなさい。
小波  |離したら何をするか分からないじゃないかぁ。
紐緒  |何をするかははっきりしているわ。さあ、その手を離しなさい。
小波  |紐緒さん、落ち着いて。さあホテルに帰ろうよ。
紐緒  |離しなさいってば…。
小波  |あ、いや、みなさん。何でもないんです。さあ、紐緒さん帰ろう。
紐緒  |離しなさい。これは命令よ。
小波  |それではみなさん、さようならぁぁ。

・ホテルの前

小波  |紐緒さん、怒ってる?
紐緒  |……。
小波  |ごめんね。紐緒さん。でもみんな楽しくビールを飲んでたしさ。
紐緒  |……。
小波  |ほら、紐緒さん。天才は天才らしく凡人のやることは多少多めに見て
    |あげないと…。
紐緒  |ありがとう。もういいわ。
小波  |お礼を言われるほどのことはしてないけど…。
紐緒  |それもそうね。
小波  |え? ^_^;
紐緒  |それはそうとお礼は言っておくわ。
小波  |は? ^_^;
紐緒  |そうそう。今日の夕食後、ロビーで待っていなさい。
小波  |ええ?
紐緒  |いいわね。夕食後、ロビーよ。
小波  |ちょっと待って紐緒さん。あ、いっちゃった。
    |うーん、夕食後かぁ。いったい何なんだろう。
    |それにお礼っていったい何のお礼だったのかなぁ。

・夕食後ロビーの前

小波  |紐緒さん、遅いなぁ。
紐緒  |待たせたわね。小波君、これから調査よ。
小波  |えっ、どこに行くの?
紐緒  |ホテルのそばの農場に、いい研究テーマがあったのよ。
小波  |研究?一体何を。
紐緒  |いいから来なさい。さあ、そのバッグを持つのよ。
小波  |うっ、これは重い。
紐緒  |当然よ。
小波  |(すると俺は荷物運びかぁ。;_;)

・ホテルのそばの農場

小波  |こっ、これは…。
紐緒  |そう、これがミステリーサークルね。私が、科学的に解明してあげる
    |わ。
小波  |初めて見た。
紐緒  |ほらつっ立っていないで、調査よ、調査。まずは、中心からね。さあ、
    |バッグの中から残留プラズマ計測装置を出すのよ。
小波  |残留プラズマ?それっていったいどれ?
紐緒  |その……。しっ。
小波  |え?
紐緒  |静かにっ。隠れるのよ。
小波  |え?
紐緒  |何者かがこちらに来るわ。
小波  |それって、ひょっとして宇宙人?
紐緒  |そんなものが存在するわけないでしょう。私が正体を暴いてあげるわ。
小波  |えっ、え〜?
紐緒  |しっ、黙って隠れるのよ。
    |ぐいっ。
小波  |(うわっ。)
    |(ううっ、紐緒さん。乱暴だよ。首の筋が…。)
    |こきこき。
小波  |(あれ?何か良い匂いがする。なんだろう?)
    |(もしや、紐緒さんの髪の毛の匂い?へー、何だか意外だな。)
    |(こうしてみると紐緒さんの髪の毛、さらさらだな。)
    |(触ってみようかな。紐緒さん、怒るかなぁ。でも触ってみちゃおう
    |かな。)
紐緒  |あなた、一体何をしているのよ!
小波  |ひぇー、ごめんなさい。
怪しい人|うわー、俺は怪しいものじゃない。ただミステリーサークルを作っ
    |てるだけだぁ。
小波  |(え?あ、俺じゃないのかぁ。よかったぁ。)
紐緒  |ミステリーサークルを作っている?
怪しい人|そ、そう。そこのも俺が作ったんだ。
紐緒  |ここのも?
怪しい人|よくできているだろ?
紐緒  |……。
小波  |うわー、紐緒さん。ちょっと待ったぁ。
    |どっかーん。
小波  |げげげっ、間に合わなかった。
紐緒  |無駄な時間を使ったわね。さあ、帰るわよ。
小波  |う、うん。一刻も早く立ち去ろう。

・ホテルの前

小波  |ここまでくれば安心だな。
紐緒  |小波君?
小波  |なに?
紐緒  |あなた、さっき一体何を謝っていたの?
小波  |え?
紐緒  |さっき、怪しい男がミステリーサークルを作っていた時よ。
小波  |いや、別に……。
紐緒  |何もしていないのに謝ったの?
小波  |いや、そうじゃないけど…。
紐緒  |じゃあ、謝るようなことをしたの?
小波  |いや、まだ…。
紐緒  |まだ?
小波  |(しっ、しまった。)
    |あの、ほら…。風がさわさわぁって吹いて紐緒さんの髪が良い匂い
    |だなぁって…。
紐緒  |髪?
小波  |で、ちょっとだけ触っちゃおうかなぁって…。
紐緒  |触る?
小波  |ちょうどそのときに紐緒さんが叫んだから…。
紐緒  |……。
小波  |で、でも本当には触らなかったから…。
紐緒  |小波君。
小波  |ひゃぁー、ごめんなさい。
紐緒  |……今日は楽しかったわ。
小波  |え?
紐緒  |また、いっしょに研究したいわね。
小波  |うっ、うん。
紐緒  |それじゃ、さよなら。
小波  |(たっ、たすかったのか?)
    |(でも紐緒さん、怒ってるのかなぁ。様子が変だったし…。ああっ、
    |憂鬱だぜ。)