「1996.08.11」ハプニングinサマー(第5話)

[No.0000000001]山本

・8月11日深夜洞窟内

伊集院 |…大体、落盤が起こっているのに、洞窟の奥に逃げ込んで
    |どうするというのだ。
小波  |仕方ないだろ、入口の方から崩れてきたんだから。
    |あの中を強行突破してみろ、何人かは下敷きだぞ?
伊集院 |だからといって、外に出る手段がなければ、
    |状況は殆ど変わらんでは無いか。
小波  |死ぬよりはマシだ。
    |それより何か明かりは無いのか?
伊集院 |水着姿のときに、何を持ち歩けると言うのだ。
小波  |ちゃんと懐中電灯を持ってた人もいるぞ。
    |ちょっとは見習え。
伊集院 |見習えるか!!
紐緒  |そうね、凡人に私の行動を見習えと言ったところで、
    |猿に高等数学を解けと言っているようなものよ。
伊集院 |いっ、伊集院財閥の跡取りを捕まえて「凡人」呼ばわりとは…。
紐緒  |気にしなくていいわ。
    |私が特別なだけだから。
伊集院 |……。
小波  |(さすがの伊集院も紐緒さんには勝てないみたいだな…)
好雄  |でも小波よ。
小波  |なんだ?
好雄  |このまま当て所もなくウロウロしたところで出口が見つかる可能性は
    |低いんじゃないか?
小波  |そりゃそうかも知れないが、他に方法が無いだろう?
好雄  |手分けして探すってのはどうだ?
小波  |明かりが無い。
好雄  |そうでも無いぞ。
    |紐緒さんが後2つ懐中電灯を持ってるらしいし、
    |虹野さんの作った即席松明も5本とも見つかった。
    |3チーム位に分かれる位は何とかなるだろ?
小波  |なんで3チームなんだ?
好雄  |男が3人だからに決まってるだろ。
    |(それに人数を減らせば女の子と二人っきりになれる可能性もあるだろ?)
小波  |お前、こういう状況でよくそういうことが考えられるな。
好雄  |人間、アクティブに生きないとな。
小波  |(そういう問題か…?)
好雄  |まぁ状況が今より悪化することはそうそう無い。
    |とにかくやってみようぜ。
小波  |そうするか…。
小波  |…ということで、3組に分かれて行動しようかと思うんだけど、
    |どうかな?
伊集院 |ふむ、まぁこのまま団体でぞろぞろと動き回るよりは効率がいいだろうな。
詩織  |でも、どう分かれるの?
小波  |とりあえず、俺、好雄、伊集院がリーダで、後は女の子が4人ずつの
    |5人グループ3つに分かれようと思う。
    |ってことで、女の子には4人ずつのグループに分かれて欲しいんだけど…。
魅羅  |ここで待っているチームというのはないのかしら?
小波  |いいけど、明かりは全部もっていっちゃうから、真っ暗の中で
    |待つことになるよ?
魅羅  |……ど、同行して差し上げてもいいわ。
小波  |じゃあ、4人のグループに…。
好雄  |小波、そんなことしなくても、一緒に行きたいリーダの所に集まってもらって
    |その後人数調整をすればいいんじゃないか?
小波  |…それもそうだな。
    |じゃあ、俺か好雄か伊集院の所に分かれてもらえるかな。
    |……
好雄  |って、何で全員お前の所に列ぶんだ、小波?
小波  |んなこと俺が知るか。
伊集院 |まぁ、こういう状況下で一番頼りがいがありそうなのは
    |小波だからな。
小波  |い、伊集院が俺をほめるなんて…。
好雄  |また落盤するんじゃないだろうな?
伊集院 |どういう意味だ?
小波  |それぐらい珍しいってことだよ。
伊集院 |それは、普段の君に全くと言っていいほどほめる部分が無いからだ。
好雄  |あ、なるほどな。
小波  |お、お前らなぁ…。
    |まぁいい、それよりこの状況をどうするんだよ?
伊集院 |君一人で全員連れて行ってはどうだ?
小波  |意味がないだろ、それじゃあ。
伊集院 |ふむ、それもそうだな。
    |ではやはり無理矢理にでも3チームに分かれてもらうしかあるまい。
    |僕が交渉してみるとしよう。
    |……
伊集院 |まとまったぞ。
小波  |そうか、で、どうなった?
伊集院 |君が全員を連れていくことになった。
小波  |全っ然まとまって無いじゃないか!
伊集院 |まぁ聞け。
    |ずっと分かれてウロウロしていたのでは、見つけても報告する
    |ことが出来ないし、どこかにチームに何かあっても分からないだろう?
小波  |確かに。
伊集院 |そこで、2時間毎にここに戻ってくるようにして、互いの無事を確認
    |しようと言うわけだ。
小波  |ふんふん、で?
伊集院 |で、集まったときにグループのメンバーを変更することにすれば
    |それで問題は無かろう?
小波  |なるほどな。
伊集院 |まぁ、君がこれほどもてるなどと言うことは、この様な特殊状況下
    |で無ければ考えられんことだ。
    |たっぷりと堪能しておくといい。
    |は〜っはっはっはっはっは。
小波  |ほっとけ。
    |…あれ、そういえば好雄は?
伊集院 |端の方ですねていたぞ。
小波  |おいおい…。
小波  |じゃあ今丁度0時だから、2時にここに帰ってくればいいんだな?
伊集院 |そういうことだ。
    |頑張って探し出してくれたまえ。
好雄  |うぅ、俺の青春って…。
小波  |おいおい、そんなこと言ってる場合じゃないだろ?
好雄  |お前はいいよな。
小波  |一番力があるから、こういう状況で頼りにされてるだけだよ。
    |別にいいもわるいも無いって。
好雄  |そ、そうか?
小波  |そういうこと。
    |だからちゃんと出口を探してくれよ。

・8月12日午前0時洞窟内

小波  |で、なんでこういうグループが出来上がったんだ…。
朝日奈 |あ、なんか嫌そうな言い方。
古式  |私 た ち と 一 緒 で は お 嫌 で し た か?
小波  |いや、そうじゃなくて…。
館林  |わ、私が邪魔なのね…。
小波  |いや、誰がどうって言うんじゃなくてね。
紐緒  |小波君、この期に及んでもゴーグルを使わないつもり?
小波  |ゴーグルはいいって。
    |(えらく疲れそうなメンバー構成だな…)
朝日奈 |でも大変なことになっちゃったよねぇ。
古式  |そ う で す ね ぇ。
朝日奈 |ってホントに分かってるぅ、ゆかりぃ?
古式  |も ち ろ ん 分 か っ て お り ま す よ。
    |こ こ か ら 出 れ な い と、
    |朝 が 来 て も 気 が つ き ま せ ん も の。
小波  |そ、そういう問題なのか…?
朝日奈 |そうじゃなくて、ここじゃ遊びたくても遊べないでしょ?
小波  |それはもっと違うような…。
朝日奈 |小波君、何か言った?
小波  |いや、別に…。
    |(ひょっとしてみんながパニックも起こさずに行動できてるのは
    | 状況を正確に把握してないからなのか…?)
館林  |ねぇ、今どこに向かってるの?
小波  |いや、紐緒さんがどんどん前進していくから…。
    |紐緒さん、どこか心当たりでもあるの?
紐緒  |出口は分かっているのに、そこを諦めて、有るか無いか分からない
    |別の出口を探すのは非効率だわ。
朝日奈 |で、でも、あそこは落盤で埋まっちゃったじゃない。
古式  |何 か 出 る 方 法 を ご 存 じ な の で し ょ う か?
紐緒  |見ていなさい。
    |天才に不可能という文字は無いわ。
館林  |じゃあ最初からそう言ってくれれば…。
紐緒  |凡人が散々苦労しても解決しなかったことをあっと言う間に解決
    |するからこそ天才なのよ。
    |苦労する前に解決してしまっては意味がないわ。
小波  |そ、そう…?
紐緒  |そうよ。
    |さあ、着いたわね。
小波  |この土砂の向こうが出口だと思うんだけど、どうするの?
紐緒  |邪魔者はけちらすのみよ。
    |吹き飛ばすわ。
館林  |えぇ!?
    |そ、そんなことしたら天井が落ちて来ちゃうよ!
紐緒  |大丈夫よ。
    |これは指向性の爆薬だから。
小波  |いや、それでも危ないよ。
    |ここは大丈夫でも、振動で別の場所で落盤するかも知れないし。
紐緒  |全て計算の上よ。
    |さあ、設置できたわ、下がりなさい。
小波  |だ、駄目だって、紐緒さん!
紐緒  |は、離しなさい、どこを触っているの!!
小波  |離したらスイッチを押すでしょうに!
紐緒  |と、とりあえず手を離しなさい!!
小波  |駄目だ!!
館林  |小波君、紐緒さんの胸を掴んでるわよ?
小波  |へっ?どぇぇぇ!?
紐緒  |分かったら早く手を離しなさい。
小波  |ご、ゴメン!
館林  |小波君、エッチ。
小波  |わ、わざとじゃ無いよ。
朝日奈 |小波君ってや〜らしいんだから。
小波  |く、暗かったから分からなかっただけだよ!
紐緒  |こ、この代償は高くつくわよ。
小波  |ごめんなさい。
朝日奈 |あれ、ゆかりは?
小波  |えっ?
古式  |こ れ を 押 せ ば よ ろ し い の で す ね?
小波  |こ、古式さん!?
朝日奈 |わぁ!駄目だってば!!
館林  |きゃ〜!!
紐緒  |待ちなさい、方向が変わって…。
    |かちっ
    |ドドドド〜ン!!
小波  |だ、大丈夫だったのか?
朝日奈 |出口も開いてないみたいだけどね。
紐緒  |だから設置方向が変わってしまっていると言おうとしたのよ。
古式  |申 し 訳 ご ざ い ま せ ん、間 違 っ て し ま っ た よ う で…。
朝日奈 |普段のんびりしてるのに、こういうときだけ行動が早いんだから。
館林  |小波君、危ない!!
小波  |えっ?
    |がんっ!!
小波  |ぐえっ!
館林  |こ、小波君、大丈夫?
小波  |な、何なんだ?
館林  |上の方から石が落ちてきたの。
小波  |くそ〜、こう言うのは好雄の役なんだぞ…。
館林  |あ、あれ!
小波  |えっ?
    |うわっ、石が降ってきた!!
紐緒  |だから設置方向が間違ってると…。
朝日奈 |そんな事言ってないで、逃げないとまずいってば!
古式  |そ の よ う で す ね ぇ。
朝日奈 |あんたもちょっとは慌てなさい!!
伊集院 |なにやらそっちの方で大きな音がしていたようだが?
小波  |また落盤があったんだよ。
    |で、そっちはどうだったんだ?
伊集院 |ふむ、そこら中に石の壁が出来ていてね。
    |どうにもならなかったよ。
小波  |好雄はどうだったんだ?
    |…好雄?
伊集院 |突然降ってきた石に頭を直撃されて昏倒したそうだ。
小波  |だ、大丈夫なのか!?
伊集院 |優美君がこの程度なら心配ないと断言していたから大丈夫だろう。
小波  |(好雄ってタフなんだな…)
    |(俺よりあいつの方が頼りになったりして)
伊集院 |ではチームを変えて別の場所を探してみるとしようか。
小波  |そうだな。