「1996.08.11」ハプニングinサマー(第4話)

[No.0000000001]山本

・8月11日夜伊集院島

小波  |ぜ〜、ぜ〜、ぜ〜…。
好雄  |す、すまんなぁ、小波…。
小波  |よ、好雄、お前よくこれだけの荷物を一人で持って来れたな…。
    |(冗談抜きに重たいぞ…)
好雄  |俺がこんな状態でなければ…。
小波  |まぁ、仕方ないさ…。
    |好雄だけが悪い訳じゃないし。
好雄  |おい、何か俺も悪いみたいに聞こえるぞ?
小波  |気のせいだ。
好雄  |そうか…?
優美  |お兄ちゃん、そうやって喋る元気があるんなら自分で歩いてよ。
好雄  |う、うぷっ…。
優美  |きゃ〜!
    |お兄ちゃん、優美の背中で吐いたりしたら、後でフルコースだからね!!
好雄  |す゛ま゛ん゛。
小波  |ぜ〜、ぜ〜、ぜ〜。
詩織  |駒人君、なんなら少し持つけど?
虹野  |そうそう、こう見えても私、結構力あるんだよ。
小波  |い、いや、下手に持ってもらうと、バランスが崩れて…。
詩織  |そ、そう…。
清川  |なんなら私が替わりに持とうか?
    |この位の荷物なら何とかなると思うけど。
小波  |いや、いいよ。
清川  |なんだよ、遠慮なんかするなよな。
小波  |こういうのは女の子の役目じゃ無いと思うし…。
清川  |ば、馬鹿、なに言ってるんだよ…。
魅羅  |……他に手伝えることも無いんだから任せてしまえば、小波君?
清川  |なに〜。
魅羅  |あら、「適材適所」と言いたかったのだけど。
    |ごめんなさい、言い方が悪かったわね。
清川  |……。
小波  |(おいおい、勘弁してくれよ…)
    |先に行くよ?
片桐  |まぁまぁ、望。
清川  |…なに?
片桐  |鏡さんは自分が役に立てないことをひがんでるだけなんだから
    |怒っちゃ駄目よ。
魅羅  |わ、私がひがんでいるですって?
片桐  |違うの?
魅羅  |ち、違うわ!
片桐  |顔が赤いわよ?
魅羅  |あ、歩き疲れただけだわ!
片桐  |いいわねぇ、小波君はモテモテで。
魅羅  |か、関係ないと言ってるでしょ!
小波  |…何が…、関係…、無いって…?
魅羅  |!?
    |こ、小波君、そこにいたの?
片桐  |鏡さんは小波君なんて眼中に無いらしいわよ?
魅羅  |なっ!
小波  |???
    |そりゃそうでしょ…。
    |俺と鏡さんじゃ釣り合いがとれないよ…。
    |それに鏡さんに色目なんて使ったら、
    |親衛隊に殺されちゃうよ…。
魅羅  |……。
小波  |そんなことより早く行こうよ…。
    |もう、荷物が重くて……。
清川  |(ねぇ、彩子)
片桐  |(なに?)
清川  |(それって鏡さんが小波を好きってことか?)
片桐  |(好きかどうかは分からないけど、気にはなってるみたいよ)
清川  |(ふ〜ん、そうなのか…)
片桐  |(…ま、小波君はそんなこと考えてもいないみたいだけど)
朝日奈 |な〜んか雰囲気重いね。
古式  |そ う で す か?
朝日奈 |小波君、元気?
小波  |……元気。
朝日奈 |ホント?
小波  |……に見えるか?
朝日奈 |……見えない。
小波  |……だろうな。
古式  |伊 集 院 さ ん?
伊集院 |な、何だね、古式君。
古式  |あ ら、い つ も の よ う に ゆ か り と…。
伊集院 |ごほんっ!
    |よ、用件はなんだね、早く言いたまえ。
古式  |お 迎 え を 呼 ん で い た だ く わ け に は
    |行 か な い の で し ょ う か?
伊集院 |迎え?
    |何故だね?
    |十分に歩いて帰れる距離だと思うが…。
古式  |こ の ま ま で は 小 波 さ ん が お 可 哀 想 で す。
伊集院 |来るときは好雄君が一人で持ってきたのだ。
    |小波が一人で持って帰れない道理はあるまい。
古式  |……そ う で す か。
    |そ の 恰 好 の と き は 冷 た い の で す ね。
    |い つ も の よ う に 女 の…。
伊集院 |わぁぁぁぁ!!
    |わ、分かった、今迎えを呼ぶ!
    |呼ぶからこの話はここまでにしようではないか!
古式  |そ う で す か。
    |あ り が と う ご ざ い ま す。
伊集院 |全く……。
    |ピポパピピパパポポパ……
    |トゥルルルルルル、トゥルルルルルル…
    |ガチャ
伊集院 |もしもし。
    |あぁ、僕だ。
    |至急こちらに迎えの車を出してくれ。
    |…無理?
    |何故だ、パーサー達は無事なのだろう?
    |…船が出た?
    |……海の上!?
    |ど、どういうことだ、詳しく説明を…。
朝日奈 |な、なにかあったのかな?
古式  |み た い で す ね ぇ。
美樹原 |ど、どうしたんでしょう?
詩織  |なんか、大変なことになってるみたいよ。
伊集院 |…うむ、自動で…。
    |…うむ。
    |…緊急帰港装置?
    |し、しまったぁ!!
    |僕としたことが…。
    |う、うむ、分かっている。
    |そういうことなら…。
如月  |一体何が起きたのでしょうか?
紐緒  |…船が出航してしまった様ね。
館林  |え、えぇ!?
    |船が出て行っちゃったんですか!?
紐緒  |私の荷物の中の発信器からの信号が徐々に弱くなっているわ。
    |私たちが動いているのでない限り、船が遠ざかっていると考えるのが自然ね。
如月  |で、では私たちは…。
紐緒  |置き去りよ。
館林  |そ、そんなぁ…。
伊集院 |みんな聞いてくれたまえ。
    |ちょっとしたアクシデントがあって、船が出航してしまったらしい。
優美  |えぇ〜!
    |じゃあ優美達はどうするんですか〜?
伊集院 |少なくとも明日の夕方までには救助ヘリがここに来ることになっている。
詩織  |じゃあ、今晩は…。
伊集院 |ここで過ごすことになるだろうな。
小波  |伊集院。
伊集院 |なんだね、庶民。
小波  |と言うことは、ここから動かなくていいってことか?
伊集院 |まぁ、そういうことだ。
小波  |た、助かったぁ、これで荷物が下ろせる…。
魅羅  |この私にこんな所で一夜を明かせと仰るの?
    |冗談ではないわ!
小波  |鏡さん、怒る気持ちも分かるけど、誰が悪いわけでもない。
    |ここは我慢して協力してよ。
魅羅  |ま、まぁ、そうね。
    |ここで怒ったところで事態は改善されそうに無いし。
清川  |小波の言うことはきくんだよな…。
魅羅  |何か仰ったかしら?
清川  |別になにも。
片桐  |(望、あなたちょっと変よ?)
清川  |(なにがだよ?)
片桐  |(ユーアーアングリィ、ずっと怒ってるじゃない)
清川  |(べ、別に怒ってなんか無いよ)
片桐  |(じゃあなんでイライラしてるの?)
清川  |そ、そんなんじゃ無いってば!
小波  |は?
清川  |えっ?
    |あ…、ははは、き、気にしないで…。
    |そ、それより一晩どうするかを決めなきゃ!
小波  |そうだな。
    |伊集院、ここには危険な動物とかはいないのか?
伊集院 |そうだな…。
    |命に関わるような生き物はいないはずだが…。
小波  |だが?
伊集院 |ひょっとすると蛇ぐらいはいるかもしれん。
小波  |蛇か…。
    |とすると森の中に入るのは避けた方がいいかも知れないな。
朝日奈 |ねぇねぇ、ああやって真剣になってるときの小波君って、
    |ちょっとかっこいいよね。
古式  |……そ う で す ね ぇ。
朝日奈 |ゆかり、ひょっとして小波君に見とれてない?
古式  |そ ん な こ と は…。
朝日奈 |ふ〜ん…。
小波  |森から木切れを集めてきてここで焚き火でもするか。
紐緒  |それは諦めた方がいいわね。
小波  |紐緒さん、どうして?
紐緒  |私の天候計測器によれば、もうすぐ雷雨になるわ。
小波  |て、天候計測器って、そんなもの一体どこに?
紐緒  |秘密よ。
小波  |だ、だって紐緒さん手ぶらで水着姿で…。
紐緒  |秘密と言ったら秘密なのよ。
清川  |い、今なんて言った?
紐緒  |「秘密よ」と言ったわ。
清川  |そ、そうじゃなくて、もうすぐどうなるって…?
紐緒  |もうすぐ雷雨になるわ。
清川  |うそ…。
    |か、勘弁してよ……。
小波  |(そうか、清川さん雷が…)
    |雷雨になるんじゃ仕方がない、どこか洞窟を探そう。
館林  |あ、私知ってる。
小波  |ほ、ホント?
館林  |お昼に散策してたときに見つけたんだ。
小波  |さ、散策してたの?
    |(アレは見られてないだろうな…)
    |で、場所は?
館林  |うん、こっちだよ。
伊集院 |ぼ、僕に防虫服なしで森に入れと言うのか!?
小波  |イヤならおいて行くぞ。
伊集院 |お、おい、待ちたまえ。
    |分かった、僕も行く。

・8月11日夜洞窟内

小波  |ぜ〜、ぜ〜、ぜ〜。
詩織  |駒人君、大丈夫?
小波  |ぜ〜、ぜ〜、ぜ〜、つ、疲れた…。
優美  |あ〜あ、優美も疲れちゃった。
好雄  |すまんな、優美。
優美  |もういいよ。
    |それより、あんまり変なもの食べないでよね。
好雄  |好き好んで食べたんじゃ無いぞ!
小波  |大分元気が戻ってきたみたいだな。
好雄  |ぎくっ。
小波  |お前、まさか荷物が運びたくないから…。
好雄  |う、うぷっ、吐きそうだ…。
小波  |調子のいいヤツ…。
伊集院 |もう少し奥に入りたいところだが、こう暗くてはな…。
小波  |そうだな、一寸先は闇って感じだな。
紐緒  |こんなこともあろうかと思って、ここに赤外線ゴーグルを持ってきているわ。
小波  |こ、こんなこともあろうと思って?
紐緒  |そうよ。
小波  |どんなことがあると思ってたの?
紐緒  |こんなことよ。
小波  |そ、そう…。
    |で、そのゴーグルはどこに持ってたの?
紐緒  |秘密よ。
小波  |……。
    |で、そのゴーグルには他に変な機能は付いてないよね?
紐緒  |変な機能は付いていないわ。
小波  |…変じゃない機能は付いてたりしない?
紐緒  |…秘密よ。
小波  |やっぱ使うのはよそう。
紐緒  |変なところを触らなければ大丈夫よ。
小波  |ホントに?
紐緒  |私は嘘はつかないわ。
小波  |じゃあ紐緒さんが付けても平気だよね?
紐緒  |あなたは、か弱い女の子に洞窟探検をしろと言うの?
小波  |(紐緒さんはか弱くないと思うけどなぁ)
紐緒  |さぁ、早く付けるのよ。
小波  |でもなぁ。
紐緒  |洞窟の奥を調べないといけないんでしょう?
虹野  |小波君!
小波  |虹野さん、どうしたの?
    |(助かった…)
虹野  |お料理セットの中にあったものを使って、即席松明を作ってみたの。
    |良かったら使ってみて。
小波  |そ、そう。
    |分かった、喜んで使わせてもらうよ。
    |ひ、紐緒さん、ということで、明かりは何とかなったから。
紐緒  |そう、残念だわ。
小波  |(あれ、怒ってる訳じゃ無さそうだな…)
    |とりあえず、奥を探ってみるか…。

・8月11日夜洞窟内

小波  |…と言うことで、安全のためにもこの奥を調べておきたいんだけど、
    |伊集院、つき合ってくれ。
伊集院 |何故僕が庶民と一緒になって洞窟探検をせねばならんのだ。
小波  |俺一人が行ったんじゃあ、なにかあったときに助けも呼べないだろうが。
    |まさか女の子を連れて行くわけには行かないし、好雄は動けないし。
    |消去法で行くと、お前しか残ってないんだよ。
伊集院 |危険な生き物はいないはずだ。
小波  |お前なぁ、落盤とかは考えないのか?
伊集院 |心配するな、落盤が起きたら何人いても一緒だ。
小波  |何をそんなに嫌がってるんだ?
    |奥の方が虫は出ないと思うぞ?
伊集院 |別に虫を嫌がっているのではない!
    |真っ暗闇に男とふた、あ、いや…。
小波  |男とふた?
伊集院 |お、男二人で暗闇をウロウロする趣味は持ち合わせていない。
小波  |そういうわがままを言ってる場合か!?
伊集院 |大体、君と僕が奥に行っている間に、ここに何かあったらどうするのだ。
小波  |うっ、そ、それは確かに…。
伊集院 |今動ける男が二人ともここを離れるわけにはいかない。
    |そうではないか?
小波  |…悔しいが、お前の言うとおりだ。
    |仕方ない、俺一人で…。
    |ピカッ!
    |ドーーーーーン!!!
清川  |きゃー!!
片桐  |ワオ!
    |な、なんなの?
小波  |雷が落ちたみたいだ。
紐緒  |それもすぐ側みたいね。
清川  |もういやぁ。
小波  |清川さん、大丈夫?
清川  |ありがとう、だ、大丈…。
    |ピカッ!
    |ドドドーーーーーーン!!!
清川  |きゃーーー!!!
小波  |(うわっ、清川さんに抱きつかれちゃった…)
    |き、清川さん…?
清川  |……。
小波  |(駄目だ、硬直しちゃってるよ…)
    |ミシミシッ
如月  |な、何の音ですか?
好雄  |小波の肋骨か?
片桐  |早乙女君、なに馬鹿なこと言ってるの!
美樹原 |詩織ちゃん…。
詩織  |大丈夫よ、メグ。
    |バキバキバキッ!!
伊集院 |うわっ!
魅羅  |な、何事なの!?
    |ガラガラガラガラ…
古式  |何 か が 転 が っ て る 音 の よ う で す ね ぇ。
朝日奈 |そんな落ち着いてる場合じゃないっしょ〜!?
館林  |ねぇ、上から聞こえてくるみたいなんだけど…。
    |ガラガラガラッ!!
虹野  |きゃあ!!
小波  |虹野さん!
片桐  |い、石!?
小波  |危ない、早く奥へ!!
優美  |お兄ちゃん、危ない!!
好雄  |いて、いて、いてっ!
    |足持って引っ張るな!!
    |ガガガガガガガガガガッ!!
    |きゃー!!
    |わぁー!!
    |……
小波  |み、みんな大丈夫か?
    |(くそっ、真っ暗でなにも見えない…)
    |清川さん、大丈夫?
清川  |う、うん、大丈夫。
    |も、もう離してくれていいよ…。
小波  |(あ、ずっと抱きしめたままだったんだ…)
    |ご、ゴメン。
清川  |あ、ううん。
    |気にしないで。
小波  |(みんなは大丈夫なのか…?)
清川  |あの…、どっちかって言うと嬉しかったし……。
小波  |えっ?
    |何か言った?
清川  |う、ううん、別になにも…。
小波  |とりあえずみんなを捜そう。
    |って言ってもこう暗くちゃあ…。
清川  |そうだね。
小波  |お〜い!
    |みんな大丈夫か〜!!
紐緒  |私は無事よ。
小波  |うわぁ!
    |ひ、紐緒さん、そこにいたの?
紐緒  |人の声を聞いて驚くなんて失礼よ。
小波  |ゴメン、全然気付かなかったから。
紐緒  |…まぁいいわ。
    |それより他の人を捜さなくていいの?
清川  |だってこう暗くちゃ、どうしようも…。
紐緒  |どうやら入口ががけ崩れか何かでふさがった様ね。
小波  |そうか、やっぱり…。
紐緒  |とりあえずこれを貸してあげるわ。
小波  |これって?
紐緒  |そういう冗談は嫌いなの。
    |早く受け取りなさい。
小波  |いや、冗談じゃなくて、ホントに見えないんだってば。
紐緒  |わっ、私としたことが……。
小波  |きっと紐緒さんもちょっと動転してるんだよ。
紐緒  |そ、そうかも知れないわね。
    |さぁ、これよ。
    |パッ
小波  |懐中電灯?
    |こ、こんなものどこに持ってたの!?
紐緒  |秘密よ。
小波  |で、でも紐緒さんは水着で手ぶらで…。
紐緒  |秘密と言ったら秘密なのよ。
小波  |さっき出してくれれば良かったのに。
紐緒  |先に出したらゴーグルを使わないでしょう?
小波  |(そういう問題か?)
紐緒  |そんなことより、みんなを捜さなくていいの?
清川  |そうだよ、小波。
    |急ごうぜ。
如月  |そこでライトを付けているのは誰ですか?
小波  |その声は…、如月さん!
如月  |小波さん?
    |小波さんですか!?
小波  |良かった、無事だったんだね。
如月  |はい、何とか…。
    |あとの二人は…?
小波  |えっ?
    |清川さんと紐緒さんだけど?
    |見えないの?
如月  |ごめんなさい。
    |さっきのときメガネを落としてしまったみたいで…。
    |ハッキリ顔が見えないんです。
小波  |そうなんだ。
    |(言われてみればメガネをかけてないな)
    |(なんか、メガネのない如月さんって別人みたいだ)
如月  |そうなんです。
    |私、かなり目が悪いので…。
    |あっ!
小波  |危ない!
    |がしっ
如月  |あ…。
小波  |如月さん、大丈夫?
如月  |あ、ありがとうございます…。
小波  |足下もあまり見えて無いみたいだね。
如月  |ご、ごめんなさい。
小波  |ほら、手を握って。
如月  |えっ?
    |は、はい……。
清川  |……。
紐緒  |……。
小波  |じゃあ、とりあえずここで3人で固まっててくれるかな。
    |俺は他の人を捜してくるから。
    |明かりが無くても大丈夫だよね?
紐緒  |まだ小さいのが2つあるから大丈夫よ。
小波  |そ、そう。
    |(そんなにどこに持ってたんだ!?)
    |じゃあ、待ってて。
清川  |小波、私も一緒に…。
小波  |いや、二人と一緒にいてあげてくれないかな。
    |人数が多い方が心強いだろうから。
清川  |そ、そうか、分かったよ。
    |でも、気を付けてな。
小波  |分かってる。
小波  |また岩が…。
    |誰かが下敷きになってたりしないだろうな。
    |……、止めよう、ロクでもない想像になりそうだ。
詩織  |メグー、どこにいるのー!?
小波  |詩織?
    |詩織か!?
詩織  |誰?
    |駒人君!?
小波  |やっぱり詩織か。
    |(この石垣の向こう側だな…)
詩織  |駒人君、その辺りにメグがいない?
小波  |メグ?
    |あぁ、美樹原さんか。
    |いや、見あたらないけど…。
詩織  |一緒に逃げてきたのに、呼んでも返事がないの…。
小波  |えっ!?
    |(ま、まさかこの岩の下じゃあ…)
    |と、とにかくこの壁を崩すから離れててくれ。
詩織  |は、離れてって言われても、全然なにも見えなくて…。
小波  |(そうか、見えてるのは俺だけなんだ…)
    |分かった、じゃあ、出来るだけ俺の声から離れてくれ。
    |(くそっ、慎重に石を取り除いていくしかないのか…)
    |……
小波  |これで…、最後だ。
    |詩織!!
詩織  |こ、駒人君…。
    |よかった、また会えて……。
小波  |な、泣くなよ詩織。
    |怪我は無いか?
詩織  |うん、大丈夫。
    |それよりメグが…。
小波  |こっちにはいなかったから、多分そっち側にいるんだと思う。
    |懐中電灯もあるし、探せば見つかるよ。
詩織  |そ、そうね。
    |……
小波  |あそこだ!
詩織  |メグっ!
小波  |気を失ってるみたいだな。
詩織  |メグっ、大丈夫っ!?
小波  |詩織、頭を打ってるかも知れないから、余り揺すらない方がいい。
詩織  |あっ、ごめんなさい。
小波  |え〜と…。
    |あっ、こんなとこに瘤が出来てる。
詩織  |えっ?
小波  |多分、転けて頭をぶつけたんじゃないかな?
美樹原 |う、ううん……。
詩織  |メグっ!
小波  |美樹原さん、大丈夫?
美樹原 |あ、小波さん。
    |私、一体…。
詩織  |頭を打って気を失ってたのよ。
    |大丈夫?
美樹原 |あ、詩織ちゃん、いたんだ。
詩織  |……随分な言いぐさね。
美樹原 |ご、ごめんなさい、気がつかなかったの。
詩織  |ホントにメグは何か一つに集中しちゃうと周りが見えなくなるんだから…。
美樹原 |ご、ごめんね。
詩織  |良いわよ、別に。
    |まぁ、何に集中しちゃったのかも想像つくし。
美樹原 |えっ、そ、そんな……。
小波  |美樹原さん、顔が赤いけど大丈夫?
美樹原 |えっ、いえ、これは、そういうんじゃ無いんです。
小波  |そう、ならいいんだけど。
美樹原 |心配してくれるんですね。
小波  |当たり前でしょ。
美樹原 |……良かった。
詩織  |駒人君、他の人は?
小波  |あ、そうだ、他の人を捜しに行かないと!
小波  |じゃあ、5人で固まってて。
詩織  |分かったわ、気を付けてね。
美樹原 |あの…、一人で、大丈夫ですか?
清川  |やっぱりついていこうか?
小波  |大丈夫だよ。
紐緒  |やっぱりゴーグルを使うべきよ。
小波  |え、遠慮します…。
如月  |あの、お気をつけて。
小波  |ありがとう。
小波  |とは言ったものの…。
    |案外広かったんだな、この洞窟。
    |まぁ、入口からそう遠くへは行ってないと思うんだけど…。
    |…まぁた壁になってやがる。
    |ん?話し声…?
館林  |でね、授業をサボって校庭で居眠りしてたりするんだよ。
片桐  |リアリィ?ホントなの?
館林  |うん、だって何回も見かけたもん。
片桐  |それでどうしてあんな点数が取れるのかしら…。
館林  |うん、勉強するときはすっごく集中してるみたいだから。
片桐  |でもよく見てるわねぇ。
館林  |えっ、そんなこと無いよ。
    |後ねぇ、一日中鏡とにらめっこしてたこともあるんだよ。
片桐  |……暇ねぇ。
館林  |でしょう?
片桐  |ノーノー、あなたがよ。
    |それを一日中見てたんでしょう?
館林  |えっ、そ、そういう訳じゃあ…。
片桐  |アイシー、分かったわ。
    |あなた……。
館林  |えっ、あの、別に、そんな…。
小波  |だぁ!
    |やっと取れたぞ!!
    |やっぱり、片桐さんに館林さんだ。
館林  |あ、こ、小波君…。
片桐  |ハロー、小波君。
    |やっと来たわね。
小波  |えらく冷静だね。
片桐  |アイビリーブユウ、きっと助けに来てくれるって信じてたもの。
館林  |えっ…。
小波  |俺が岩の下敷きになってたら、どうするつもりだったんだ?
片桐  |そうねぇ、あなたのことだから、自力で這い出してくるんじゃない?
小波  |俺は人間だ。
片桐  |誰も違うなんて言ってないわよ?
小波  |岩の下敷きになって自力で這い出せる人間がどこにいるんだ!?
片桐  |そうねぇ。
    |私の目の前に懐中電灯持って立ってるわ。
小波  |あ〜の〜な〜。
片桐  |そんな恐い顔してたら女の子にもてないわよ?
小波  |館林さん、掴まって。
    |片桐さんは一人で出られるらしいから。
片桐  |あ、ソーリー、ごめんなさい。
    |私が悪かったから、置いていかないでぇ。
小波  |分かればよろしい。
    |じゃあ、みんなの所へ行こう。
館林  |片桐さん……、もしかして……。
小波  |館林さん、何か言った?
館林  |…ううん、別になにも言ってないよ。
小波  |さて、これで1、2、3……、7人か。
    |まだ後7人も残ってるのか…、はぁ。
    |清川さんが、こっちの方で物音がしたって言ってたんだけど…。
    |ガラガラッ!
小波  |どわっ!
虹野  |あ、ごめんなさい!
    |誰かいるなんて思わなかったから…。
小波  |に、虹野さん?
虹野  |こ、小波君なの?
    |よ、よかったぁ、誰にも会えなかったらどうしようかと思ってたの。
小波  |無事で良かったよ。
    |よく一人で岩を動かせたね。
虹野  |もしも他のみんなが動けないような怪我をしてたらどうしようとか
    |そんなことばっかり考えちゃって…。
    |もう、そうしたら、動ける私が頑張るしかって。
    |でもホントによかった…。
小波  |虹野さんはホントに大丈夫なの?
虹野  |うん、大丈夫よ。
    |あ痛っ…。
小波  |ど、どうしたの?
    |怪我してるの!?
虹野  |足をちょっとだけ。
小波  |うわっ、結構ひどく擦ってるじゃないか。
虹野  |でもこれぐらい、根性があれば大丈夫よ。
小波  |駄目だよ、血が出てるじゃないか。
    |とりあえず何かで縛っておかないと…。
    |(何かないかな…)
    |(ええい、仕方ない、Tシャツを裂いて…)
    |びりびりっ
小波  |ゴメン、こんなのしか無いんだ。
虹野  |そこまでしなくてもいいのに。
小波  |とりあえず足を出して。
虹野  |えっ?
小波  |縛るから足を出して。
虹野  |あ、ち、ちょっと恥ずかしいね…。
小波  |ちょっと我慢してね。
虹野  |あ、痛っ…。
小波  |さ、これでいい。
    |ほら、負ぶさって。
虹野  |えっ、い、いいよ、歩けるから…。
小波  |いいから、ほら。
    |足場が悪いし、あんまり足を動かさない方がいい。
虹野  |そ、それじゃあ…。
小波  |よいしょっと。
虹野  |あの、重くない?
小波  |大丈夫だよ、これでも鍛えてるんだから。
虹野  |……。
小波  |あ、別に「重い」って言った訳じゃ無いからね。
虹野  |うん、分かってる。
小波  |じゃあ、しっかり掴まってて。
小波  |さてさて、後6人、後6人っと…。
    |なんか国際救助隊にでもなった気分だな。
朝日奈 |ねぇ、やっぱ無理じゃない?
古式  |そ う で す ね ぇ。
    |ど う い う 風 に 石 が 積 み 重 な っ て い る の か が
    |見 え ま せ ん と…。
朝日奈 |だよねぇ。
古式  |申 し 訳 あ り ま せ ん、私 の 為 に…。
朝日奈 |別に謝らなくてもいいって。
    |二人とも無事だったんだからさぁ。
古式  |で す が…。
小波  |朝日奈さん、古式さん、そこにいるの?
古式  |こ れ は こ れ は 小 波 さ ん、
    |助 け に 来 て 下 さ っ た の で す か?
朝日奈 |やっぱ小波君は頼りになるよね。
小波  |こういうときだけ頼りにされてもなぁ。
朝日奈 |まぁまぁ、堅いこと言いっこなし。
小波  |で、朝日奈さんはそこでなにしてるの?
朝日奈 |遊んでるように見える?
小波  |寝転がってるように見える。
朝日奈 |もう、ウル馬鹿!
    |好きで寝転がってるんじゃ無いんだってばぁ!
小波  |まぁ、そりゃそうだろうね。
古式  |夕 子 ち ゃ ん は 私 を 助 け よ う と し て
    |足 を 挟 ま れ て し ま っ た の で す。
小波  |ええっ!?
    |大変じゃないか!!
    |あ、足は痛くないの?
朝日奈 |石に潰されてるんじゃなくて、石の隙間にはさまっただけなんだ。
    |だから、怪我とかは大丈夫だと思う。
小波  |そりゃ良かった。
    |ちょっと待ってて、いまどけるから。
古式  |私 も お 手 伝 い 致 し ま す。
小波  |い、いいよ、危ないから。
古式  |で す が、私 の 責 任 で も あ り ま す し…。
小波  |そこまで言うなら…。
    |でも無理しないでいいからね。
古式  |あ り が と う ご ざ い ま す。
    |こ れ を ど け れ ば い い の で す ね?
    |あっ!
    |どさっ!
小波  |……いて〜!!
朝日奈 |あ〜もう、ゆかりのドジ。
    |小波君の足の上に落としてど〜すんのよ。
古式  |も、申 し 訳 あ り ま せ ん。
    |大 丈 夫 で す か?
小波  |多分、大丈夫、だと、思う…。
    |やっぱり、危ないから、見てて、くれる、かな?
古式  |は ぁ、そ の 方 が よ ろ し い よ う で す ね ぇ。
小波  |あぁ、ひどい目にあった…。
    |後は誰だっけ。
    |え〜と鏡さん、優美ちゃん、好雄、伊集院か…。
    |どうせ好雄は優美ちゃんと一緒にいるだろう。
    |…また壁が出来てる……。
    |えいっ!
    |どんっ!
    |ガラガラガラッ!
好雄  |どわ〜っ!!
    |むぎゅっ…。
優美  |お兄ちゃん!!
小波  |優美ちゃん?
    |好雄もいるのか?
    |あれ、優美ちゃんしかいないぞ?
優美  |あ、先輩!
    |助けに来てくれたんですね!?
小波  |優美ちゃん、大丈夫?
    |怪我はない?
優美  |はい、優美は平気です。
    |でもお兄ちゃんが…。
小波  |好雄が?
    |怪我をしたのか!?
優美  |多分…。
小波  |多分って、好雄はどうしたんだ!?
    |どこにいるんだ!?
優美  |お兄ちゃんはたった今石の下敷きになって、
    |今は先輩の足下にいます。
小波  |どえっ!?
好雄  |こ〜な〜み〜〜〜。
小波  |よ、好雄、こんな所にいたのか…。
好雄  |お前なぁ…。
小波  |なんだ?
好雄  |反対側の状況も確認せずに、いきなり壁を崩すな!!
小波  |いや〜、すまんすまん。
    |蹴ったぐらいでくずれるとは思わなかったんだよ。
好雄  |俺がこっち側で崩してたんだから、蹴ったらくずれるのは当たり前だ!
小波  |そうだったのか、本当にすまん。
好雄  |本気でそう思ってるなら、さっさと俺の上からどけっ!!
小波  |あ、そうだったな。
    |がばっ!
好雄  |俺も今度という今度は怒ったからな。
    |今度はお前が埋まれっ!
小波  |うわっ、好雄、待て、落ちつけ!
好雄  |これが落ちつけるか〜!!
優美  |ごほっ、お兄ちゃん、埃が立つから止めてっ!
小波  |ごほっ、ごほっ、そうだそうだ。
好雄  |ごほっ、お前が言うなぁ!!
小波  |ごほっ、ごほっ、だから悪かったって謝ってるだろ。
好雄  |ここに埋まって反省の意志を示せ!
優美  |もう、お兄ちゃん、いい加減にして!
    |ドロップキ〜ック!!
    |どがっ!!
好雄  |なんで俺だけこんな目に…。
    |ばたっ。
小波  |好雄のヤツ、あんなに怒ることは無いじゃないか…。
    |まぁ、石の下敷きにされれば、誰だって怒るか。
    |げほっ、全く、声が風邪引いたみたいにがらがらだよ…。
    |あれ?
    |あそこでうずくまってるのは鏡さんかな?
    |お〜い、鏡さ〜ん!!
魅羅  |だ、誰…?
小波  |鏡さん、大丈夫?
魅羅  |き…。
小波  |鏡さん?
魅羅  |きゃー!!
    |人魂が喋ったぁ!!!
小波  |か、鏡さん、人魂じゃないって。
魅羅  |いやー!
    |止めて、来ないでー!!
    |誰か助けてぇ!!!
小波  |か、鏡さん、落ち着いて。
    |俺だよ、小波だよ。
魅羅  |小波…君?
小波  |ほら、よく見てよ。
魅羅  |こ、小波君の、お化け…。
    |どさっ
小波  |か、鏡さん!?
    |(俺の顔見て気絶するってのはどういうことだよ!)
    |(顔に何かついて…あ、顔中土まみれだ)
    |(土まみれの顔に下から懐中電灯当てればお化けに見えるか…)
    |(それにしても気絶するほど恐がるなんてね)
    |か、鏡さん…?
    |(あっと、起こす前に顔の泥だけ落としておかないと…)
    |鏡さん。
    |鏡さんっ。
魅羅  |う、ううん……。
    |はっ!?
    |お、おば…。
小波  |鏡さん、俺だってば。
魅羅  |こ、小波君なの?
小波  |そうだよ。
魅羅  |その声は?
小波  |ちょっとあってね…。
    |それより大丈夫?
    |怪我してない?
魅羅  |あ、当たり前よ、この美貌に傷が付くことなんて、
    |神が許すはずは無いもの。
    |ほ〜っほっほっほっほっほ。
小波  |(これが出るようなら大丈夫だな…)
魅羅  |それより小波君、いつからそこに?
小波  |ん?
    |ついさっきだよ。
魅羅  |そこにお化けがいなかった?
小波  |はぁ?
魅羅  |あ、別にいいわ。
    |気にしないで。
小波  |(勘違いだと思ってもらってた方がいいだろうな)
    |じゃあ、みんなの所へ行こう。
魅羅  |ええ、よろしくってよ。
    |しっかりエスコートをお願いするわね。
小波  |はいはい…。
小波  |さて、後は伊集院か…。
    |いっそのこと見つからなければ静かでいいんだが…。
    |探さない訳には行かないよなぁ。
    |おや?
    |(今、何かが電灯の光を反射したような…)
    |……
小波  |確かこの辺りに……。
    |こ、これはっ!
    |(岩の下から服の端がはみ出てる…)
    |(これって確か伊集院のヨットパーカーだ…)
    |う、うそだろ…。
    |こ、この岩の下敷きになったって言うのか?
    |(1トン位はありそうだ…)
    |(まさか、ホントに伊集院が…!?)
    |おい、悪い冗談は止めてくれよ…。
    |どうせその辺りから高笑いしながら出て来るんだろ…?
    |……勘弁してくれよぉ。
    |(まさか俺の言ったことが現実になるなんて…)
    |(ま、待てよ…)
    |(潰れてるにしては血の跡が無い…)
    |(朝日奈さんみたいに隙間に挟まれてるのかも!)
    |待ってろよ、今助けてやる!!
    |うぎぎぎぎぎっ…。
    |(くっそ〜、重たいぞ〜!)
伊集院 |誰かいるのか?
小波  |うぎぎぎぎぎぎっ…。
伊集院 |なんだ、小波ではないか。
    |そこで何をしてるんだ?
小波  |伊集院がこの岩の下にいるんだよ!
    |お前も手伝え!!
伊集院 |???
    |君は何を言っているんだ?
    |ついに脳に変調をきたしたのか?
小波  |誰が脳に変調をきたしてるんだ!
    |血が流れてこない以上、生きてる可能性は高いんだ!
    |いいからお前も手伝え、伊集院!!
伊集院 |……。
小波  |……伊集院?
伊集院 |なんだね、庶民。
小波  |お前、何でここに?
伊集院 |がけ崩れで閉じこめられたからに決まっている。
小波  |じゃあ、このパーカーは…?
伊集院 |転倒した際に転がってきた石に挟まれて抜けなくなったので
    |脱ぎ捨てたのだ。
    |…まさか君は、僕がこの下にいると思っていたのか?
小波  |あ、当たり前だろ!
    |岩の下からお前のパーカーが見えてるんだから!!
伊集院 |で、僕を助けるためにこの岩を?
小波  |そうだよ。
伊集院 |…君がそこまで僕のことを思ってくれているとは思わなかったよ。
小波  |ば、馬鹿、そういうんじゃない!
伊集院 |ほう、ではなんなのかね?
小波  |お、お前がいないと救助隊において行かれる可能性があるからな。
伊集院 |なるほど。
    |で、さっきから何をどもっているのだ?
小波  |べ、別にどもってないさ。
伊集院 |どもりまくっているではないか。
小波  |そ、そんなことはない!
伊集院 |ほらまた。
小波  |ぐっ。
伊集院 |まぁいい。
    |僕も君と掛け合い漫才をしているほど暇じゃ無い。
小波  |俺だってしたくないわい。
    |それより伊集院よ。
伊集院 |なんだね?
小波  |Tシャツ姿のお前って、妙に色っぽいな?
伊集院 |な、何を言っているのだ!
    |き、君は変な趣味でも持ち合わせているのか!?
小波  |いや、そんなことは無いと思うんだが…。
伊集院 |それよりも、ここを抜け出す方法を…。
    |むっ?
    |ゴゴゴゴゴゴゴゴッ
小波  |じ、地震か!?
伊集院 |いや、この向こうでさらにくずれているのだろう。
小波  |げっ、ってことは、さらに出口が遠くなったってことか!?
伊集院 |そういうことだな。
    |ガラッ
伊集院 |はっ!?
小波  |伊集院、危ない!!
    |どんっ
伊集院 |きゃっ!
    |どさっ!
小波  |危なかったな、あの石が頭を直撃するところだ。
伊集院 |す、済まない。
小波  |ところで今、「きゃっ」とか言わなかったか?
伊集院 |き、君の空耳だろう。
小波  |そうか?
    |…で、伊集院。
伊集院 |今度は何だ?
小波  |お前、胸にサラシを巻いてるのか?
伊集院 |…ど、どこに顔を擦りつけてるんだ!!
    |どんっ!
    |がんっ!
小波  |ぐえっ!
伊集院 |し、しまった!
    |こ、小波、大丈夫か!?
    |小波!
    |…小波君、しっかりして!!
    |……

・8月11日深夜洞窟内

小波  |気がつくと全員が集まっていた。
    |どうやら俺は、岩に頭をぶつけて、相当長い時間気を失っていたらしい。
    |気を失う直前に、女の子の声を聞いたような気もするのだが、
    |誰も知らないと言う。
    |俺の空耳だったのだろうか?
    |目が覚めると、伊集院が妙な眼差しでこっちを見ていた。
    |う〜む、俺にその毛は無い…と思うんだが……。
    |恐いので深く考えるのはよそう。
    |さて、何とかしてここから脱出しなければ…。
    |俺達に明日はあるのだろうか?