「1996.06.16」二度ある悪夢は三度ある〜紐緒結奈〜
[No.0000000013]柴田
・結奈の自宅
|ぷるるるーぷるるるるー。
紐緒 |はい。紐緒です。
小波 |あの、小波ですけど…。
紐緒 |……いったい何の用?
小波 |……。
紐緒 |用がないなら切るわよ。
小波 |用ってほどのことじゃないんだけど…。
紐緒 |用ってほどのことじゃないなら切るわよ。
小波 |用ってほどのことなんだけど…。
紐緒 |用ってほどのことかは私が判断するわ。
小波 |じゃあ、切らないで聞いてくれる?
紐緒 |……しかたないわね。
小波 |紐緒さん、もしかして怒ってない?
紐緒 |怒っているわよ。
小波 |いや、今怒っているのは分かっているんだけど…。
紐緒 |分かっているなら聞く必要はないわね。
小波 |……。
紐緒 |用はそれだけ?
小波 |あの……。そういう意味じゃなくて。
紐緒 |なによ。分かるように言いなさいよ。
小波 |最近、変な噂が流れているみたいなんだけど…。
紐緒 |流れているようね。
小波 |やっぱり…。
紐緒 |用はそれだけ?
小波 |紐緒さん、その噂に心当たりがあったりしない?
紐緒 |……。
小波 |あったりしない?
紐緒 |あったらどうなの?
小波 |やっぱりあるんだ。
紐緒 |あったらどうなの?
小波 |今度の日曜、暇?
紐緒 |話がとぶわね。
小波 |暇だったら秋葉原探索ツアーとか行かない?
紐緒 |……。
小波 |日本橋でも良いんだけど…。
紐緒 |……。
小波 |なんなら、パロアルトでも…。
紐緒 |(私の作戦を見抜くなんてさすがね。まあ、それならそれで作成を第
|二段階に切り替えるまでよ。)
|分かったわ。再来週の日曜に遊園地ね。
小波 |え?再来週?遊園地?
紐緒 |来週は準備で忙しいのよ。
小波 |でもなぜ遊園地……。
紐緒 |いやならいいのよ。
小波 |いえ、お供させて頂きます。
紐緒 |そう。だったら再来週の日曜に遊園地の前、遅れずに来るのよ。
小波 |決して遅れません。
紐緒 |心掛けることね。
|がちゃ
紐緒 |さあ、すぐに準備をはじめないと…。
・遊園地前
小波 |あっ、紐緒さん。ひょっとして待ってた?
紐緒 |気にすることはないわ。時間通りだから…。
小波 |え?でも……。
紐緒 |ちょっと準備に時間がかかっただけよ。
小波 |でも紐緒さん、いつもの服だしお弁当を持ってるようすはないし…。
紐緒 |何よ、それ?
小波 |いや、なんの準備かなぁと思って……。
紐緒 |そんなこと気にしないで良いのよ。さあ、行くわよ。
小波 |はい。お供します。
紐緒 |さあ、今日は楽しいわよ。
小波 |紐緒さん、本当に遊園地で楽しいの?
紐緒 |楽しむのはあなたよ。ああ、楽しみね。
小波 |うーん、なんだかいやな……じゃなくて楽しい予感が……。
紐緒 |何をぶつぶつ言っているのよ。早く来なさい。
小波 |ワン。
・遊園地、中央広場。
紐緒 |さあ、あれに乗るわよ。
小波 |ジェットコースターですか?
紐緒 |そうよ。まさか嫌だとは言わないわよね。
小波 |いえ、もちろん言いません。さあ、列に並んで……。
|あれ?列がない。それどころか良く見たらお客さんが全然いない。
紐緒 |今日は貸し切りよ。
小波 |へ?
紐緒 |貸し切りなのよ。
小波 |誰の?
紐緒 |私のよ。何か疑問があるの?
小波 |でもそれって莫大な金額が……。
紐緒 |それがどうしたの?
小波 |それに入場の時に入園料を払ったような……。
紐緒 |細かいことは気にしないで良いのよ。
小波 |あんまり細かいことじゃないような気がするんだけど…。
紐緒 |いいから、さっさとジェットコースターに乗るのよ。
小波 |うーん……。あれ?
紐緒 |早く乗るのよ。
小波 |紐緒さん、これ、ジェットコースター?
紐緒 |そうよ。そう書いてあるでしょ?
小波 |「どきどきメモリアル」って書いてあるんですけど…。
紐緒 |気のせいよ。
小波 |見覚えがあるホースや包丁が下がっているんですけど…。
紐緒 |気のせいよ。
小波 |シートの焦臭い匂いにも覚えがあるんですけど…。
紐緒 |気のせいよ。
小波 |やっぱり他の乗り物にしません?
紐緒 |……。
小波 |あの……、観覧車とか……。
紐緒 |いいわよ。
小波 |へ?
紐緒 |「いいわよ」って言ったのよ。
小波 |あの…、本当に?
紐緒 |くどいわね。さあ、行くわよ。
|てくてく
小波 |あれ?これ…。これが観覧車?
紐緒 |シートは焦臭くないわよ。
小波 |たっ、確かに…。
紐緒 |ホースや包丁もないわよ。
小波 |でもかわりに蛇口とナイフが…。
紐緒 |「どきどきメモリアル」とも書いてないわよ。
小波 |でもかわりに「いまどきメモリアル」って書いてあるような…。
紐緒 |細かいことにうるさいわね。
小波 |紐緒さん、これに乗るんですか?
紐緒 |乗るわよ。
小波 |やっぱり他の乗り物にしません?
紐緒 |……。
小波 |あの……、お化け屋敷とか……。
紐緒 |いいわよ。
小波 |へ?
紐緒 |「いいわよ」って言ったのよ。
小波 |あの…、本当に?
紐緒 |くどいわね。さあ、行くわよ。
|てくてく
小波 |あれ?これ…。これがお化け屋敷?
紐緒 |そうよ。見るからにお化け屋敷じゃない。
小波 |どちらかと言ったら「どきどきメモリアル」のような…。
紐緒 |違うわ。「なんどきメモリアル」って書いてあるでしょ?
小波 |たいして違わないような…。
紐緒 |ホースも包丁も蛇口もナイフもないわ。
小波 |シャワーとアイスピックで十分なんですけど…。
紐緒 |急須とカッターが良ければそういうのもあるわよ。
小波 |……。
紐緒 |ポットと日本刀でも私は構わないわ。
小波 |もしかして全ての乗り物が…。
紐緒 |確かめてみる?
小波 |……。
紐緒 |さあ、とにかくどれでもいいから早く乗るのよ。
小波 |……。
紐緒 |時間を稼いでも無駄よ。今日はここはオールナイトで開いているのよ。
小波 |……。
紐緒 |乗るわね?
小波 |……。
紐緒 |乗るのよ。
小波 |……紐緒さん。
紐緒 |なによ。
小波 |俺はこうして二人でいるだけで十分楽しいんだ。
紐緒 |私は楽しくないわ。
小波 |こうして見つめあっているだけで十分幸せなんだ。
紐緒 |私は不幸よ。
小波 |……。
紐緒 |さあ、乗るわね。
小波 |どうしても乗らなきゃだめ?
紐緒 |怒るわよ。
小波 |せっ、せめて一台だけで勘弁してもらえません?
紐緒 |いいわよ。
小波 |ほっ、本当に?じゃあ、あのフリーフォールに…。
紐緒 |……。
小波 |あの、フリーフォールなんですけど…。
紐緒 |仕方ないわね。いいわ。フリーフォールにしましょう。
|てくてく
紐緒 |さあ、ここに座って。
小波 |うううっ、死んでも命がありますように。
紐緒 |これを装着して。
小波 |お父さん、おかあさん。先立つ不幸をお許しください。
紐緒 |さあ、これをかぶって。
小波 |我が人生にいっぱいの悔いありぃぃぃぃ。;_;
紐緒 |さあ、動かすわよ。
|ごごごごごご
小波 |あっ、オープニングが始まった。
紐緒 |オープニングはスタートボタンでとばせるわ。
小波 |うっ、例の幼なじみが……。
紐緒 |オープニングはスタートボタンでとばすのよ。
小波 |なっ、なんだこいつ……。女に詳しいデブ?カメラが趣味?なんか別
|のゲームと混ざってないか?
紐緒 |早くオープニングをとばすのよ。
小波 |うおっ、理事長の孫?嫌な奴なんてレベルじゃないぞ、こいつは……。
|こら!いきなり切付けてくるんじゃない!
紐緒 |早く!早くスタートボタンを押すのよ。
小波 |ゲームスタートか……。なっ、なんだこのコマンドは……。暴れる、
|待ち伏せる、薬を射つ……。どれも危なそう。
紐緒 |どれを選択しても結果は同じよ。どれでもいいから早く押すのよ。
小波 |え、えぇー。;_; じゃあ、仕方がない。この少しは無難そうな……。
|がたっ、ぐーん、ごー、がくん。
小波 |ひぇー恐かった。
紐緒 |……。
小波 |紐緒さん、もういい?
紐緒 |コマンドは?コマンドは入力したの?
小波 |え?あ、いや、突然おっこっちゃったから…。
紐緒 |……。
小波 |あの、紐緒さん、これでいい?
紐緒 |……。
小波 |だめ?
紐緒 |約束だからもういいわ。
小波 |ほ、本当に?
紐緒 |この紐緒結奈。嘘はつかないわ。
小波 |ひゃぁー。良かった。ふー、もうくたくただよ。
紐緒 |もう帰っても良いわよ。
小波 |え?でも。
紐緒 |つかれたんでしょ?帰っても良いわよ。
小波 |いや、でも…。
紐緒 |心配しなくてももう噂は消えるわよ。
小波 |そうじゃなくて。
紐緒 |なんなのよ。もう乗らないんだからここにいてもしかたがないわ。
小波 |だったら、秋葉原行かない?
紐緒 |え?
小波 |ここからだったら近いし、紐緒さんの好きそうな店をちゃんとチェッ
|クしてあるから…。
紐緒 |……。
小波 |秋葉原だったらきっと楽しいし幸せだと思うんだ。
紐緒 |……。
小波 |日本橋でもいいんだけど…。
紐緒 |……。
小波 |なんならパロアルトでも…。
紐緒 |秋葉原で良いわ。
小波 |え?ほんと?
紐緒 |あなたには負けたわ。
小波 |別に勝とうなんてつもりは…。
紐緒 |いいのよ。さ、行くわよ。
小波 |ワンワン。