「1996.01.14」涙の訳は…〜鏡魅羅〜
[No.0000000001]山本
・1月14日、朝、遊園地入口
小波 |鏡さん遅いなぁ。
|もう30分も待ってるのに…。
|(やっぱ、騙されたかなぁ)
|(あんな美人が、俺なんかに声かけること自体変だもんなぁ)
|(帰っちまうかなぁ)
|で、でも何かあって遅れてるだけだったら…。
|(「あの」鏡さんとのデートをすっぽかしたことに…)
|(うぅ、帰るに帰れない…)
魅羅 |こんな所で、何を涙ぐんでるの。
|恥ずかしいったら無いわね。
小波 |か、鏡さん。
|来たんだ。
魅羅 |当たり前でしょう。
|それじゃ、そろそろ中に入るわよ。
小波 |(むっ)
|(来たのは良いけど何だよこの態度!)
|(30分も遅れて謝りもしないなんて…)
魅羅 |どうしたの?
|早く、チケットを買ってきて頂戴。
小波 |(むっか〜)
|(なんか腹立って来たぞ…)
|(で、でも相手は「あの」鏡さんなんだよなぁ…)
|(あぁ、何か情けなくなってきた)
|分かった、今買ってくるよ。
魅羅 |急いで頂戴ね。
|私、待たされるのは嫌いだから。
小波 |分かってるよ!
|たったったったった…
|…たったったったった
小波 |ふぅ、ふぅ、お待たせ。
魅羅 |ありがとう。
|じゃあ、中にはいるわよ。
小波 |はいはい。
|(性格キツイよなぁ…)
|(美人なんてこんなもんか?)
・1月14日、昼、遊園地内レストラン
小波 |(やっぱり美人なんだよなぁ…)
|(みんな鏡さんを振り返ってるし)
|(あ、場所と雰囲気が合ってないせいもあるのかも…)
魅羅 |あぁ、視線が熱いですわ。
|どこへ行っても注目の的になってしまうのね。
小波 |(それを口に出して言うか?)
魅羅 |お食事も済んだし、次はどこへ連れていって下さるの?
小波 |え?
|も、もう移動するの?
魅羅 |せっかく来たのですから、楽しまなければもったいないでしょ。
小波 |(鏡さんって、変なところで貧乏くさいなぁ…)
|じゃ、じゃあゲームコーナにでも行こうか。
|乗り物ばっかりじゃ、疲れるでしょ?
魅羅 |ゲーム?
|まぁいいわ、つき合ってあげてもよろしくてよ。
小波 |(何だかなぁ…)
・1月14日、午後、遊園地内ゲームコーナ
魅羅 |やはり大人の女にはゲームなんて似合いませんわね。
小波 |(だから自分で言うか、それを)
|そ、そうだね…。
|そうだ、クレーンゲームで何か取ってあげようか?
魅羅 |クレーンゲーム?
|あなた、私にぬいぐるみをプレゼントしてどうするつもり?
小波 |あ、い、いらないよね、やっぱり。
|(う〜ん、こりゃ、デート場所の設定ミスだな…)
魅羅 |…、あ、待って、やっぱり一つ取っていただこうかしら。
小波 |へっ?
魅羅 |私に、ぬいぐるみを取っていただけません?
小波 |は、はぁ…。
|(なんだ?言ってることが突然変わったぞ?)
小波 |あ、クレーンゲームはいっぱいみたいだね。
|ちょっと待つ?
|それとも、また乗り物に行こうか?
魅羅 |そこのあなた、ちょっと替わっていただけませんかしら?
小波 |か、鏡さん!?
男 |えっ?
|あ、あぁ、良いですよ、どうぞどうぞ!
女 |私にあれ取ってくれるんじゃなかったの!?
男 |べ、別に良いじゃないか、替わって欲しいっていってるんだし。
女 |あなたって、美人の言うことなら何だって聞くのね!
|もういい、私帰る!!
男 |お、おい、待てよ!!
小波 |な、何だかなぁ…。
|(まぁ、男として気持ちは分かるが…)
|(でも鏡さんも鏡さんだよなぁ)
魅羅 |じゃあ、取って下さる?
小波 |あ、はいはい。
|いま取ります。
|どうぞ。
魅羅 |……たわ。
小波 |えっ?
魅羅 |な、何でもないわ。
|さぁ、乗り物でも乗りに行くわよ。
小波 |はいはい。
・1月14日、夕方、遊園地内
小波 |結構乗ったね。
魅羅 |そうね。
|疲れてきたわ。
小波 |そろそろ帰ろうか。
魅羅 |そうして下さる?
|どんっ!
|どたっ!!
魅羅 |きゃっ?
子供 |ふぇ…、ふぇぇぇぇぇぇん!!
魅羅 |あっ。
|大……。
小波 |な、何?
|(何でこっちを見つめるんだ?)
魅羅 |……。
小波 |か、鏡さん…?
父 |よしよし、大丈夫か?
|君、ちゃんと前を向いて歩いてくれないと…。
魅羅 |ごめんなさい、許して下さいます?
父 |う、うむ。
|こ、今度から気を付けてくれれば…。
子供 |ふぇぇぇぇぇぇぇぇん。
魅羅 |行きましょう、小波君。
|ばしっ!!
魅羅 |きゃっ!?
|い、痛いわね!何をするの!?
小波 |謝る相手を間違ってる。
魅羅 |何ですって。
|何が間違っているって言うの?
|ちゃんと許すと言ってくれたじゃないの。
小波 |違う!!
|子供に謝るべきだと言ってるんだ!!
魅羅 |わ、私を怒鳴りつけるなんて…。
|あなた、私が誰だか分かってるの?
|ばしっ!!
魅羅 |!?
|ま、また叩いたわね…。
小波 |君が誰だろうと関係ない!
|子供に謝れ!!
父 |き、君。
|何もそこまで…。
小波 |良いんです。
|さ、謝るんだ。
魅羅 |……。
|ぽろっ
小波 |……!?
魅羅 |ご、ごめんなさい…。
子供 |僕もう大丈夫だから、お姉ちゃんも泣かないで。
魅羅 |ありがとう…。
|ごめんね……。
子供 |お姉ちゃん、そんなに強く抱きしめられたら苦しいよ。
魅羅 |本当に…、本当にごめんね…。
・1月14日、夕方、遊園地入口
小波 |……。
魅羅 |……。
小波 |鏡さん、ゴメンね。
魅羅 |えっ?
小波 |さっきはゴメンね。
魅羅 |自分が悪いと思ってるの?
|それともご機嫌取りのために謝っているのかしら?
小波 |俺が間違ってたとは思ってない。
|でも、女の子の顔を叩いたことや、泣かせたことは俺が悪いと思ってる。
魅羅 |あなたは悪くないわ。
小波 |えっ?
魅羅 |そろそろ帰るわ。
|今日はありがとう。
小波 |う、うん…。
魅羅 |今日は…、本当に楽しかったわ。
小波 |(あ、あんな事があったのにか!?)
魅羅 |また…、誘っていただけるかしら?
小波 |う、うん。
|また電話するよ。
|(分からないなぁ)
|(女の子って何考えてるんだか…)
魅羅 |待っているわ。
|あ、それと…。
小波 |なに?
魅羅 |ぬいぐるみ、ありがとう。
小波 |いいよ、そんなこと。
|そんなにしおらしいと、鏡さんらしくないよ。
魅羅 |…そうね、私らしくないわね。
|でも、たまにはいいんじゃないかしら。
|じゃ、ここで別れましょう。
小波 |うん、じゃあ気を付けて…。
・1月14日、夜、小波の部屋
小波 |(ホントはいい子なのかも知れないな、鏡さんって)
|(でも、今回のことが親衛隊に知れたら…)
|ぞ〜っ
|こ、恐いから考えるのはよそう…。
|……、まだ、手が熱いや…。
|(俺のやったことは本当に正しかったのか?)
|(自分の正義感を怒りにまかせて押しつけただけじゃあ…)
|ま、考えても仕方がない。
|俺は正しいと思ってやったんだし。
|さ、寝るとするか!