「1995.10.13」ららら、科学の娘(こ)ぉぉぉ〜紐緒結奈〜

[No.0000000013]柴田

・文化祭当日、廊下にて…。

小波  |やれやれ、文化祭かぁ。文化部に入っている女の子に知り合いが少な
    |いからもう回るところがないなぁ。うーん、ん?科学部?薬品調合の
    |公開実験?こいつはパスかな。
紐緒  |ふふふっ、それは昨日までの話、今日の科学部はスーパーヴァーチャ
    |ルリアリティーギャルゲーム「どきめきメモリアル」の展示よ。
小波  |え?あっ、君は学園のマッドサイエンティスト、右目は実はお父さん
    |という噂の紐緒結奈さん。
紐緒  |ずいぶんな噂ね。特に右目がお父さんのはずがないでしょ?
小波  |だったら見せてよ。
紐緒  |それはできないわ。見せてはいけないという仕様なのよ。
小波  |仕様ならしかたがないか…。
紐緒  |そうよ。しかたがないよの。ところで小波君、「どきめきメモリアル」、
    |プレーしてみるでしょ?
小波  |え?なぜ俺の名前を…。
紐緒  |ふふふっ、私の科学には不可能はないわ。
小波  |そんなもんかなぁ。それに、紐緒さん「薬品調合の公開実験は昨日ま
    |で」って文化祭は今日一日じゃないの?
紐緒  |R10000チップも現実のものとなった今、いつまでも古い設定に
    |こだわっていられないわ。新バージョンでの仕様変更よ。
小波  |仕様変更ならしかたがないか…。すると、俺が「どきめきメモリアル」
    |をプレーするというのも仕様?
紐緒  |いいえ、設定よ。
小波  |設定ならしかたがないか…。ちょっと不安だけど…。
紐緒  |不安?この私が設計、作成したゲームのどこが不安なの?
小波  |紐緒さんが設計、作成したからこそ不安なんだけど、露骨にそういう
    |のは失礼だから例をあげて説明すると、紐緒さんが夏休みの合宿で作っ
    |たという「頭が良くなる夕食」を食べた科学部員は全員入院したし、
    |体育祭で作った自動玉転がしメカは暴走して校舎に大穴をあけてしまっ
    |たし、入学式の時の…。
紐緒  |これ以上ないくらい露骨に言っているじゃないの!
小波  |いやぁ、そういう人柄だから…。
紐緒  |人柄ならしかたがないわね。
小波  |そう、しかたがないんだ。
紐緒  |ともかく、「どきめきメモリアル」やってみるわよね?
小波  |ちょっと質問して良いかな。
紐緒  |何?
小波  |そのゲームをプレーするの俺が初めて?
紐緒  |4人目だけど、それが何か?
小波  |俺の前にプレーした3人って無事?
紐緒  |……。
小波  |無事?
紐緒  |……。
小波  |無事じゃないんだ……。
紐緒  |失礼ね。死んではいないわよ。
小波  |やっぱり無事じゃないんだ……。
紐緒  |ちょっと入院しているだけよ。
小波  |じゃ、そういうことで。
紐緒  |待ちなさい。
小波  |いや、急用だから…。
紐緒  |待たないとよくない噂を流すわよ。
小波  |あー、なんだか急に待ちたくなったなぁ。
紐緒  |いい?入院した連中はプレーに問題があったのよ。彼らの問題点は明
    |らかだわ。あなたは同じ失敗をしなければ良いだけのことよ。
小波  |本当に?
紐緒  |とにかくまず「どきめきメモリアル」の本体を見てみるのよ。

・科学部の展示

小波  |こっ、これが…。
紐緒  |そう。これが「どきめきメモリアル」の本体よ。プレイヤーはこのコッ
    |クピットに座ってこのヘルメットをかぶり、両手両足を情報収集ター
    |ミナルに接続するのよ。
小波  |そうすると?
紐緒  |あなたの行動はコンピュータの中で再現されてそれがこの装置からフィー
    |ドバックされるのよ。
小波  |このコックピットの前にうじゃうじゃ生えているのは?
紐緒  |それがフィードバック回路よ。
小波  |えー?このなんかうちわみたいのは?
紐緒  |それは風のフィードバック回路よ。ゲーム中で風に吹かれた場合、こ
    |のうちわが実際にあなたに風を送るのよ。
小波  |ふーん。じゃあ、このホースみたいのは?
紐緒  |それは水泳フィードバック回路よ。ゲーム中で泳いでいる場合、この
    |ホースから水が出るのよ。
小波  |えー、それはちょっと…。。じゃあ、このやりみたいのは?
紐緒  |それは雷フィードバック回路ね。ゲーム中で雷が発生した場合、実際
    |にこの装置から雷が落ちるのよ。
小波  |やっぱりやめときます。
紐緒  |大丈夫よ。実際には当らないから…。
小波  |本当に?でもこのコックピットなんだか焦臭いんだけど。
紐緒  |気のせいよ。
小波  |あと、このぶきみな染みのついた包丁は…。
紐緒  |そっ、それは…。
小波  |まさかとは思うけど、これはゲーム中で刺されたときの…。
紐緒  |さっ、刺されるようなことをしなければ…。
小波  |本当にまさかとは思うけど、ゲームに「極端に嫉妬深い女の子」とか
    |「危ない薬を常用している女の子」とかは出てこないよね。
紐緒  |……。
小波  |出てこないよね?
紐緒  |幼なじみの女の子のクラブを操作すれば「嫉妬深い女の子」は登場し
    |ないわ。
小波  |じゃあ、「危ない薬を常用している女の子」は?
紐緒  |……。
小波  |ひょっとして、出現をロックできない。
紐緒  |……。
小波  |もしかして強制出現キャラ?
紐緒  |……。
小波  |もしかして幼なじみの女の子がそう?
紐緒  |……。
小波  |やっぱり帰ります。
紐緒  |待ちなさいってば。別に刺されると決まったわけじゃないのよ。
小波  |一人は雷にうたれて、一人は刺されて、もう一人は?
紐緒  |……。
小波  |もう一人は?
紐緒  |地雷を踏んだわ。
小波  |やっぱり帰ります。
紐緒  |待ちなさいってば。別に地雷を踏むと決まったわけじゃないのよ。
小波  |危ないフィードバック回路はこれで全部?
紐緒  |……。
小波  |まだあるの?
紐緒  |……。
小波  |やっぱり、帰ります。
紐緒  |待ちなさいってば。あやしい噂を流すわよ。
小波  |あー、なんだか帰りたくなくなったなぁ。
紐緒  |じゃあ、プレーしてくれるわね。
小波  |ふっふっふっ。紐緒さん。
紐緒  |何よ。
小波  |5、4、3、2、1
放送  |ほーたーるのひーかーり……。本日の文化祭は5時を持ちまして終了
    |いたしました。
紐緒  |ああっ、いつのまにこんなに時間が…。
小波  |ふっふっふっ、だてに突っ込みを入れ続けたわけじゃなかったという
    |わけさ。
紐緒  |くっ、おのれ小波駒人。
小波  |あー、残念だったなぁ。「どきめきメモリアル」やりたかったなぁ。
    |さってゆく小波駒人。
紐緒  |ふっ、さすが私が見込んだ男ね。あの才能、能力。いつかきっと私の
    |物にして見せるわ。