「1995.09.24」パニック・ピクニック

[No.0000000001]山本

・9月21日、昼休み、学校、中庭

詩織  |こ・ま・ん・ど・君!
小波  |あ、詩織。何か用か?
好雄  |おぉ、これはこれは藤崎さん。ささ、こっちに座りなよ。
詩織  |ううん、すぐ戻るから。あのね、駒人君。
小波  |なに?
詩織  |今度の日曜日、暇?
好雄  |お、お、お、おれ、おれ、俺、暇だよ!?
小波  |お前には聞いてないだろうが。あぁ、暇だよ。
詩織  |じゃあ、私につき合ってくれないかな?
好雄  |お、お、お、俺、つき合う。喜んでつき合う!
小波  |だから、お前じゃないって言ってるだろ!あぁ、別にいいよ。
詩織  |良かった。あのね、ちょうど良い季節だし、ピクニックに行こうと思って。
小波  |ピクニック?
好雄  |もがもがもが…。
詩織  |そう。いま紅葉の季節だし、すっごく綺麗だと思うの。
小波  |そうだな…、お弁当作ってくれるか?
詩織  |うん、もちろんよ。
小波  |よし、OK。喜んで行くよ。
詩織  |良かった。じゃあ10時に駅前で待っててね。
小波  |一緒に行かないのか?
詩織  |待ち合わせした方が、「遊びに行く」って感じでしょ?
小波  |そんなもんかね。分かった、10時に駅前だな。
詩織  |遅れないでね。じゃあ。
    |たったったった…
小波  |よ〜し、今度の日曜だな。
好雄  |もがもがもが!!
小波  |あ、ゴメン、今放すよ。
好雄  |はぁはぁはぁ。お前、俺を殺す気か?
小波  |お前があんまりうるさいからだろ。
好雄  |いいなぁ、詩織ちゃんのお弁当か…。な、俺も行っていいか?
小波  |駄目だ。お前が来ると俺の食う分が無くなるだろうが。
好雄  |ちぇ、ケチ。
小波  |そういう問題か!とにかく駄目だからな。
好雄  |(そっちがそういうなら、こっちにだって考えがあるんだぜ…)
小波  |ん?何か言ったか?
好雄  |いやいや、何も。あ、そだ、俺ちょっと用事を思い出しちゃった。
小波  |何だよ急に。
好雄  |いや〜、悪いが急ぐ。じゃあまた後でな。
    |たったったった…
小波  |何なんだ、変なヤツだなぁ。

・9月24日、朝、駅前

小波  |さて、詩織は来てるかな。あ、いたいた。お〜い、詩織ぃ〜。
詩織  |……。
小波  |詩織?どうしたんだ、難しい顔して…。
詩織  |……。
小波  |(な、なんなんだよ…、俺、睨まれるような事したっけ?)
古式  |こ れ は こ れ は 小 波 さ ん、お は よ う ご ざ い ま す。
小波  |こ、古式さん!?
朝日奈 |今日はぜっこ〜のピクニック日和で、チョベリグって感じ。
小波  |あ、朝日奈さんまで…。
詩織  |……。
小波  |(ま、まさか詩織、俺が彼女たちを呼んだと思ってるのか?)
詩織  |……。
小波  |し、詩織、違うんだ。これは、その……。
    |(駄目だ、何を言っても言い訳に聞こえそうだ…)
虹野  |おはようございます。
小波  |虹野さん…。
    |(どうなってるんだ、一体…)
虹野  |今日は誘ってくれてどうもありがとう。お弁当いっぱい作ってきたから、
    |一緒に食べようね。
小波  |(な、なんだって?俺が誘った?)
清川  |ごめ〜ん、ちょっと遅くなっちゃったよ。
小波  |清川さんまでいるのか。
清川  |なんだそれ。「是非」って誘うから来てやったのに。
    |そんなこと言うなら帰るぜ?
詩織  |……。
小波  |ちょ、ちょっと待ってくれよ。一体俺がいつ…
館林  |おはようございます。ゴメンね、ちょっと遅れちゃった。
伊集院 |やぁ諸君、おはよう。ちょっと道が混んでいたもので遅れてしまった。
    |許してくれたまえ。
小波  |館林さんに、伊集院まで。
館林  |今日は誘ってくれてありがとう。すっごく嬉しかったよ。
伊集院 |本来ならこんな庶民の催し物に参加する謂れはないんだが、
    |クラスメートに是非にと言われて無視するのも大人げないからな。
    |さぁ、参加してやったことを感謝したまえ。は〜っはっはっはっは。
小波  |何となく分かってきたぞ……。
    |好雄!!てっめぇ、出てきやがれ!!
好雄  |よぉ、小波。
小波  |やっぱりな。お前だな、みんなに広めたのは…。
好雄  |な〜に言ってるんだ。「呼んでくれ」って言ったのはお前じゃないか。
詩織  |……。
小波  |お、お前なぁ…。
好雄  |(この状況で、みんなに「帰れ」って言えるのか?)
小波  |(…、覚えてろよ好雄……)
好雄  |(あいにく俺の頭は、女の子のデータを覚えるので手一杯だ)
朝日奈 |ねぇ、全員そろったんだから、早く出発しようよ〜。
古式  |そ う で す ねぇ、早 く し な い と お 昼 に
    |間 に合 わ な く な っ て し ま い ま す。
虹野  |そうね、早く行きましょう。
清川  |なんだ、みんな弁当作ってきてるのか?
館林  |あんまり、おいしくないかも知れないけど…。
伊集院 |お弁当を持って無くても心配無用だ。
    |伊集院家おかかえの鉄人が同行してくれている。
小波  |て、鉄人〜!?
好雄  |そんなもんがどこにいるんだ?
伊集院 |君の目は節穴か?
    |あそこに止まっている伊集院家専用バスの中に決まっているだろう。
小波  |ば、バスまで用意してるのか…。
伊集院 |では、出発するとしよう。さぁ、みんな乗ってくれたまえ。
    |どうした、小波君、早乙女君。君たちは歩いていくのかね?
小波  |(お前も、呼ぶなら呼ぶで、ちょっとは考えろよ)
好雄  |(すまん、これは俺の計算ミスだ)
伊集院 |早く乗らんと本当にほって行くぞ。
    |さぁ、藤崎君も早く乗りたまえ。
詩織  |……。
伊集院 |では出発だ!
一同  |おぉ!!
小波  |はぁ…。
詩織  |……。
小波  |(何とか誤解をとかなきゃ…)

・9月24日、昼、高原

小波  |…ということで、俺達は目的地の高原へとやってきた。
    |といって、何事もなく到着したわけでは無く、当然のようにバスの中で
    |一悶着有った訳なのだが、今はそれにはふれたくない…。
    |結論だけ言うと、みんなが持ってきたお弁当はおじゃんになり、
    |伊集院がつれてきた「鉄人」もリタイア、バスにあったキッチンは
    |大破した…。
    |で、俺達はバスの中にあった「飯盒セット」でご飯をつくろうと言うことに
    |なったわけだ。
    |救いと言えば詩織の機嫌が直ったことぐらいだろうか…。
伊集院 |小波君、一人でなにをぶつぶつ言っているのかね?
小波  |ナレーションだ、ほっといてくれ。
伊集院 |…庶民のすることはよく分からん。
    |まあいい、それよりどうだ、僕のすることに抜かりはないだろう。
    |こんなことも有ろうかと飯盒セットも用意しておいたのだ。
    |感謝したまえ。は〜っはっはっはっはっは。
小波  |(どんなことが有ると思ってたんだ、こいつは…)
伊集院 |ん?なにか言ったかね?
詩織  |さぁ、到着よ。
朝日奈 |うわ〜、綺麗〜。チョー感激って感じ。
古式  |本 当 に 綺 麗 な 景 色 で す ね ぇ。
清川  |うわ〜、すっごいなぁ。こんな景色が見れる場所があるなんて
    |知らなかったよ。
館林  |来てよかったぁ。
虹野  |根性で上ってきた甲斐があったね、早乙女君。
好雄  |ぜ〜ぜ〜ぜ〜。
小波  |なんだ好雄。女の子だって平気で上ってきてるんだぞ。
好雄  |ぜ〜ぜ〜、お、俺一人に飯盒セット持たせやがって、なに言ってやがる。
小波  |自業自得だ。
好雄  |ぜ〜ぜ〜、お、覚えてろよ…。
小波  |あいにくと、女の子のことを覚えるだけで手一杯でね。
詩織  |駒人君って、やっぱりプレイボーイなのね。
小波  |ち、違う違う、それは誤解だよ。
詩織  |今、「女の子のこと覚えるので手一杯」って言ったじゃない。
小波  |だから「女の子達」とは言ってないだろ?
詩織  |さぁ、どうだったかしら?
小波  |詩織〜。
詩織  |ふふっ、勘弁してあげる。
朝日奈 |ねぇねぇ、あの二人って、なんかいい雰囲気じゃない?
古式  |そ う で す ね、 お 二 人 は 幼 な じ み だ そ う で す か ら。
朝日奈 |そうじゃなくってぇ。も〜、ゆかりはこういうこと激ニブなんだからぁ。
    |ね、清川さん、そう思わない?
清川  |……。
朝日奈 |清川さんってば。
清川  |……。
古式  |な ん か、怒 っ て ら っ し ゃ る 様 で す ね ぇ。
朝日奈 |なに怒ってるんだろ?ま、いいか。
    |ねぇねぇ、虹野さん、あの二人いい雰囲気じゃない?
虹野  |そ、そうね。そんな風にも見えるわよね…。
朝日奈 |ん〜?
    |なにドモリまくってんの?
虹野  |べ、別にドモってなんか、な、ないわよ。
    |そ、そういえば館林さんってどこに行ったのかしら?
朝日奈 |館林さん?そういえば見ないね。
古式  |館 林 さ ん な ら、あ そ こ で こ ち ら を じ っ と 見 て お ら れ る
    |よ う で す け ど。
朝日奈 |あ、ほんとだ。あんな所でなにやってんだろ。
    |も〜、みんな訳わかんないよ〜。
好雄  |おい、小波。
小波  |なんだよ、いいところなんだからじゃまするなよ。
好雄  |あんまり、詩織ちゃんとばかりいちゃいちゃしない方がいいぞ。
小波  |なんでだよ?
好雄  |周りをよく見て考えろ。
小波  |周り…?
    |え〜と、朝日奈さんと古式さんはこっちを見ながらひそひそと話をしてる。
    |虹野さんは不安げにこっちを見てるな。
    |清川さんは…、げっ、にらんでるよ…。
    |あれ?館林さんは?
好雄  |あそこだ。
小波  |なんで木陰からこっそりこっちをうかがってるんだ?
好雄  |そんなこと、俺が知るか!
    |それより分かったら早く詩織ちゃんから離れるんだ。
小波  |だから何でだよ?
好雄  |小波、お前ふざけてるのか?
小波  |なにを?
好雄  |違う、こいつはマジに分かってないんだ。はぁ…。
小波  |な、なんだよ、溜息なんかついて。
好雄  |小波。悪いことは言わない。
    |変な噂を流される前に詩織ちゃんから離れろ。
小波  |そ、そうか。
    |他の子が詩織と俺がいちゃいちゃしてたって噂したら
    |詩織が傷つくもんな。
好雄  |なんか違うがそういうことだ。
小波  |分かったよ、忠告ありがとう。
伊集院 |では諸君、このあたりで食事の準備にとりかかろうではないか。

・9月24日、午後、高原

小波  |じゃあ手分けして準備にかかろう。
    |え〜と、やらなきゃいけないことは…。
好雄  |そうだな、竈作り、米研ぎ、薪拾いってとこか。
    |後は、山菜を摘むか魚を釣ればおかずになるな。
小波  |好雄…。
好雄  |へへぇ、少しは見直したか?
小波  |お前、野外生活者だったのか?
好雄  |ごげっ!お、お前なぁ。
小波  |冗談だ。
好雄  |お前のは冗談に聞こえん!
詩織  |でも、荷物をおいて行くから、見張りも必要ね。
小波  |さて、誰がなにをやるかだな…。
好雄  |俺は竈でもつくるか。一番の重労働だから、女の子に
    |させるわけにはいかんだろう。
小波  |好雄、お前がそんなまともなこと言うなんて…。
好雄  |へへぇ、ちょっとは見直したろ?
小波  |熱でもあるのか?
好雄  |ずげっ!お、お前なぁ!
小波  |冗談だ。見直したよ。
好雄  |最初からそう言え!
小波  |さて、他を誰がやるか…。
虹野  |あ、私お米研ぐのなれてるから、それやります。
小波  |ふ〜ん、虹野さんってそういうの得意なんだ。
虹野  |得意って訳じゃないけど、中学の時からサッカー部の合宿とかで
    |料理作ってたから…。
小波  |へぇ〜、料理が上手な女の子ってなんかいいね。
虹野  |そ、そんな、大したもんじゃないよ。
詩織  |じゃあ私も手伝うね。
小波  |詩織も?
詩織  |たくさん研がなきゃいけないから、一人だと大変でしょ。
    |私もお料理は作りなれてるし。
虹野  |い、いいよ、私一人で出来るから。
詩織  |気を使わないで。みんなで出来ることを手分けしましょう。
小波  |そうだな、頼むよ詩織。
詩織  |うん。
館林  |私、見てるのは得意だから、お留守番してるね。
小波  |そ、そうなんだ。ゴメンね、退屈な役やらせて…。
館林  |いいの、他になにも出来ないから…。
清川  |じゃあ、私は魚を捕りに行って来る!
小波  |清川さん…。釣りが得意なの?
清川  |ううん、やったこともないよ。
小波  |???
    |魚、捕ってくるって言わなかった?
清川  |言ったよ。
小波  |?????
    |ま、まぁ、お願いするよ。
    |おぼれないように気をつけてね。結構流れが速そうだから。
清川  |平気だよ。心配してくれてありがとね。
朝日奈 |じゃあ、私はゆかりと薪でも拾いに行くわ。
古式  |そ う で す ね ぇ、他 に 出 来 そ う な こ と も あ り ま せ ん し。
小波  |そう、二人で大丈夫?
朝日奈 |平気平気。こう見えても体力には自信が有るんだから。
    |ね、ゆかり。
古式  |私 も 一 応 テ ニ ス 部 員 で す の で、体 力 は そ れ な り に…。
小波  |そっか。じゃあお願いしようかな。
    |となると俺は山菜摘みか…。伊集院もそれでいいか?
伊集院 |なに!?
    |ぼ、僕に虫だらけの森の中に入れと言うのか?
小波  |みんなで手分けしてやろうって言っただろうが。
    |虫が苦手だからって、我侭言うなよ。
伊集院 |失礼な!僕に苦手な物など無い!
    |…ただ嫌いなだけだ。
小波  |(どう違うって言うんだよ…)
伊集院 |仕方がない…、アレを使うとしよう。
小波  |アレ?
伊集院 |そう、これだ!
    |伊集院家特製「防虫服」!!
好雄  |ど、どっから出したんだ、そんなもん?
詩織  |ド○えもんみたい。
朝日奈 |藤崎さん、ふるいよ、それ…。
小波  |な、なんなんだ、その宇宙服みたいなのは?
伊集院 |虫のはいる隙間を完全になくした、特製防虫服だ。
    |は〜っはっはっはっはっは、驚いたかね?
好雄  |俺はあきれたぞ。
朝日奈 |なんか、チョーダサ。
虹野  |なんか、暑そうね。
詩織  |そんなの着れるの?
古式  |動 き に く そ う で す ね ぇ。
館林  |私は着たく無いな。
小波  |…、やめた方がいいんじゃないか?
伊集院 |こ、これだから庶民というものは!!
    |この優雅な機能美というものが分からないのだから困り者だ。
    |まあいい、所詮エリートは僻まれるものなのだ。
    |着替えてくる、のぞくなよ。
小波  |誰がのぞくか!

・9月24日、午後、高原

小波  |伊集院、どうだ調子は?
伊集院 |結構集まったぞ、見たまえ。
小波  |…、お前、これほとんど食べれないのばっかりじゃないか。
伊集院 |そうなのか?
小波  |はぁ、もういいよ。
    |見本渡すから、それと同じのを探して摘んでくれ。
伊集院 |まったく、庶民とは細かいことにこだわるものだ。
小波  |こだわらないと、食えないだろうが!
    |ほら、見本。
伊集院 |仕方ない、探してやろう。
小波  |お前はいちいち偉そうに言わないと行動できないのか!
小波  |それはそうと伊集院よ。
伊集院 |人が真剣になっているときに水を差すな。なんだ?
小波  |なんだ、ぐだぐだ言ってたけど、真剣に探してたんだな。
伊集院 |う、うるさい。何のようだ?
小波  |その服、ほんとに完全密封なのか?
伊集院 |…君は我が伊集院家の科学力を疑うのかね?
小波  |そういう訳じゃないけど…。
    |隙間が無かったら窒息しちゃうんじゃないか?
伊集院 |特殊換気口が付いているから問題ない。
    |ちなみに温度も外気温と同じに保たれている。
小波  |じゃ、そこから虫は入ったりしないのか?
伊集院 |防虫対策は完璧だ。そんなことはあり得ない。
小波  |ふむ、じゃあ着たときだな。
伊集院 |さっきから何の話をしてるんだ?
小波  |…、お前がかぶってる金魚鉢の内っかわにクモが張り付いてるぞ。
伊集院 |えっ…。
    |き、きゃー、く、くもー!!!!
    |だだだだだだだだだ
小波  |お、おい、伊集院…。
伊集院 |きゃー、きゃー、くも、くもー!!!!
    |だだだだだだだだだ
小波  |森の中を走り回ったら危ないぞ〜。
伊集院 |きゃーきゃーきゃー!!!!
    |だだだだだだだ
    |がんっ!!!!
伊集院 |きゅう…。
小波  |言わないこっちゃない。
    |伊集院、大丈夫か?
    |…だめだ、完っ全にのびてる。
    |仕方ない、とりあえずつれて帰るか。
    |何で伊集院を抱えていかなきゃいけないんだ、全く…。
    |よいしょっと。
    |ふわっ
小波  |(い、伊集院の体って妙にいい香りがするな)
    |(それに、なんだか柔らかい…)
    |わ〜!!なに考えてるんだ俺は!
    |さっさとつれて帰ろう…。

・9月24日、午後、高原

小波  |お〜い、館林さ〜ん。
    |あれ?館林さん、どこいったんだ?
    |とりあえず、伊集院を寝かせちまうか。
    |よっと。
館林  |じー。
小波  |た、館林さん?
    |そ、そんな木の陰でなにやってるの?
館林  |あっ、見つかっちゃった。
小波  |あ、あのねぇ。
    |かくれんぼやってるんじゃないんだから。
館林  |ゴメンね、私、こうやって見てないと落ちつかないの。
小波  |そ、そうなの?
館林  |そうなの。
小波  |そ、それなら仕方ないか…。
    |じ、じゃあその調子で伊集院も見張っててくれるかな。
館林  |伊集院君どうしたの?
小波  |木にぶつかったんだよ。
館林  |大丈夫なの?
小波  |まぁ、こいつは殺しても死なないさ。
館林  |ま、ひどい。くすくす…。
小波  |館林さんだって笑ってるじゃないか。
館林  |だって、ほら…。
小波  |うわ、でっかいこぶが出来てるよ。
    |ぷっくくくくく…、こうしてみると二枚目も台無しだな。
館林  |うふふ、ほんと。
小波  |…、コアラ?
館林  |えっ、なにが?
小波  |館林さんの髪飾り。コアラになってるんだね。
館林  |うん。よく気が付いたね。
小波  |たまたま目に入っただけだよ。好きなの?
館林  |え…、えぇ!?だ、誰が?
小波  |ん?いや、館林さんがコアラを好きなのかなって。
館林  |何だ…。うん、好きなんだ。ぬいぐるみも持ってるんだよ。
    |そうだ、見せて上げるね。
小波  |持ってきてるの?
館林  |うん、ちょっと待って…。
    |ごそごそ…
館林  |ほら、かわいいでしょ。
小波  |どれどれ…。ふ〜ん、そうだね。
    |でもなんか目つきが悪くない?
館林  |そんなこと無いよ。
小波  |それに、眉毛が付いてるぞ!?
館林  |普通付いてるでしょ?
小波  |普通付いてないでしょ。
館林  |そんなことないもん。もういい、そんなこと言うなら返して。
小波  |ご、ごめん、けなす気は無かったんだよ。
    |もうちょっと見せてよ。
館林  |いや、返してぇ。
小波  |もうちょっとだけ。
館林  |やだぁ。
小波  |た、館林さん。そんなにすり寄られたら、む、胸が…。
館林  |えっ?や〜ん、小波君のH!
    |どん!
    |ころころころころ…
小波  |あっ!
館林  |あぁ、コアラさんが〜。
小波  |あちゃ〜、ごめん。よりによって崖に落とすなんて…。
館林  |…、いいよもう。私も悪かったし。
小波  |(そんなに急な崖じゃ無いな…)
    |よし、俺取りに行って来るよ!
館林  |こ、小波君!危ないからもういいってば!!
小波  |大丈夫、大丈夫、ちょっと待ってて。

・9月24日、午後、高原

小波  |え〜と、確かこの辺りに落ちたと…、あったあった。
朝日奈 |小波君。
小波  |朝日奈さん?どうしたの、こんな所で。
朝日奈 |えへへ、薪拾いも飽きちゃってさ。
小波  |また、そんなこと言って。古式さんはがんばってるんだろ?
朝日奈 |ゆかりはとろいから、がんばってるけどまだ私の半分ぐらい。
    |あんまり差がつくとなんだから、私はしばらくさぼり。
小波  |ご、ごめん。そうだったんだ。
朝日奈 |別に謝るようなことじゃないよ。
    |でも小波君って結構いい場所知ってるんだね。
小波  |えっ?
朝日奈 |ここのこと。
    |景色もいいしさ、綺麗な川もあるし、空気は澄んでるし。
    |こんな近場にこんないいところが有るなんて、ちょっと感激って感じ。
小波  |朝日奈さんって、都会っ子って感じだけど、こう言うところも好きなんだ。
朝日奈 |そりゃあね、町中で遊ぶのも楽しいけどさ。
    |たまにはこういう所もいいんじゃない?
小波  |そうだね。
朝日奈 |そうだ、今度は街でどこかにつれていってよ。
    |遊ぶ場所、いっぱい知ってるんでしょ?
小波  |いいよ、また今度遊びに行こう。
朝日奈 |やったぁ、チョーラッキー。約束したからね。
    |あ、そろそろゆかりんとこもどんなきゃ。
小波  |あ、そうか。じゃ、がんばって。
朝日奈 |うん、じゃあね。
小波  |朝日奈さんって、明るい子だよなぁ。
    |(ああいう子が彼女でも楽しいかな?)
朝日奈 |きゃー!
小波  |今のは朝日奈さん!?
    |だっだっだっだっだっだ
小波  |どうしたんだ!?
朝日奈 |ゆ、ゆかりが!
小波  |古式さんが?
朝日奈 |あ、あれ。
小波  |えっ?
    |な、なんであんな高い木に古式さんがぶら下がってるんだ!?
朝日奈 |そんなの私が聞きたいよ〜。
    |ゆかりー、大丈夫ー!?
古式  |は ぁ、大 丈 夫 な の で す が、降 り ら れ そ う に あ り ま せ ん。
小波  |それは大丈夫とは言わないだろ!
古式  |そ う な の で す か?
    |で す が、本 当 に 体 に け が な ど は 無 い の で す。
    |た だ、降 り ら れ な い だ け で…。
小波  |(体が竦んじゃってるのか…)
    |(どうする…)
    |(幸い下は落ち葉で柔らかい…、やるか!)
    |朝日奈さん、これ持ってて。
朝日奈 |これって…、コアラのぬいぐるみ?
小波  |古式さん、聞こえる?
古式  |は い、聞 こ え て お り ま す。
朝日奈 |なんでコアラのぬいぐるみ…?
小波  |手を離して飛び降りるんだ。
朝日奈 |コアラ…、えっ、えぇ〜!?
古式  |そ ん な こ と を し て は、落 ち て し ま い ま す。
小波  |俺が受けとめるから大丈夫だよ。
古式  |そ れ で は 小 波 さ ん が け が を し て し ま い ま す。
朝日奈 |そ、そうだよ、そんなの無茶だってば。
小波  |これでも鍛えてるんだから、大丈夫だよ。
古式  |し か し…。
小波  |大丈夫、俺を信じろ!
古式  |…、分 か り ま し た。で は 参 り ま す。
    |ぱっ!
    |ひゅ〜、どしん!
小波  |いっててて。
    |古式さん、大丈夫だった?
古式  |え え、私 は 平 気 で す け れ ど も、
    |小 波 さ ん は 大 丈 夫 な の で す か?
朝日奈 |ゆかり、小波君、大丈夫!?
小波  |俺は平気さ。
    |下が柔らかかったからね。
    |さ、古式さん、立てる?
古式  |…あ の と き と、お な じ で す ね。
小波  |へっ?
古式  |雛 を 帰 し て あ げ た か っ た ん で す。
小波  |な、何の話?
古式  |巣 か ら 落 ち た 鳥 の 雛 を 見 つ け た の で、巣 に 帰 し て
    |あ げ た か っ た ん で す。
小波  |それであんな木の上に登ったんだ。
    |古式さんって、優しいんだね。
朝日奈 |ゆかりぃ、偉いけどあんまし心配かけないでよね。
古式  |ま こ と に 申 し 訳 ご ざ い ま せ ん で し た。
小波  |それで、巣には帰してあげれたの?
古式  |は い。
小波  |そりゃよかった。
    |じゃあ気をつけてね。
古式  |あ り が と う ご ざ い ま し た。
朝日奈 |小波君、かっこよかったよ。
小波  |へへっ、ちょっとは見直したか?
朝日奈 |うんうん、見直した、見直した。
    |すっごく男らしかったもん。
古式  |……。
小波  |まぁ、何にしろけがが無くてよかったよ。
朝日奈 |あれ、ゆかりぃ、帽子は?
古式  |…、そ う い え ば ご ざ い ま せ ん ね ぇ。
朝日奈 |え〜、あれって大事な帽子なんでしょ?
古式  |お そ ら く 木 か ら 降 り る と き に 飛 ば し て し ま っ た と…。
小波  |帽子なくしちゃったのか?
    |え〜と、飛んだとしたら風向きからしてあっちだな。
    |俺、ちょっと探してみるよ。
古式  |い え、そ ん な こ と を し て い た だ い て は…。
小波  |少し探して無かったらあきらめるよ。
    |もう薪は集まったの?
朝日奈 |これぐらい有れば足りると思うよ。
小波  |じゃあ、館林さん所に戻っていてよ。
    |ついでにぬいぐるみ返しといてくれないか。
朝日奈 |あ、これ、館林さんのだったんだ。変だと思った。
小波  |そんなに変か、そのぬいぐるみ?
朝日奈 |そうじゃなくて、小波君がぬいぐるみ持ってたことが変って言ったの。
    |じゃ、私たちは戻ってるね。
古式  |ど う も あ り が と う ご ざ い ま し た。

・9月24日、午後、高原

小波  |飛んだにしてもこの辺だと思うんだけどなぁ。
    |もうちょっと奥に入ってみるか。
    |がさがさ
小波  |ん?川だ。
    |あ、あったあった。こんな所まで飛んでたのか。
清川  |えいっ、こいつ!
    |ばしゃ、ばしゃ!
小波  |清川さん?
    |釣りやってたんじゃ無かったのか?
清川  |やったぁ、捕まえたぞ。
小波  |さ、魚を手掴みで捕まえてる!?
清川  |誰かいるのか?
小波  |あ、ゴメン。じゃましちゃったかな。
清川  |なんだ小波か。いいよ別に。
    |どうしたんだ、こんな所で。
小波  |帽子探して奥まで来たらここについたんだ。
清川  |帽子?
小波  |そう、古式さんが風で飛ばしちゃってね。
清川  |そうなのか。見つかってよかったな。
    |私の方は順調だぜ。もう5匹も捕まえたんだ。
    |今持っていって見せてやるよ。
    |ばちゃばちゃ…
小波  |清川さん、寒くないの?わっ!?
清川  |ん?
    |体を動かしてるから大丈夫だよ。
    |着替えも持ってきてるし。
小波  |そ、そうなんだ…。
清川  |なんだよ、さっきから。
    |話すときはちゃんとこっちを向けよな。
小波  |そ、そっち向くとまずいような…。
清川  |顔見ずに話す方が失礼だぞ。
小波  |そ、そういうならそっち見るけど…。
    |こ、これでいい?
清川  |そうそう、それが礼儀ってもんだ。
    |そうだ、小波もやってみないか?
小波  |……。
清川  |小波?
小波  |…ピンクのぽっちが…。
清川  |へっ?
小波  |はっ!
清川  |…、きゃー、Tシャツが透けてる〜!!
    |H、スケベ、変態!!
小波  |だって、清川さんがこっち向けって…。
    |わ、水をかけるな、魚を投げるな。
清川  |うるさい、馬鹿ぁ!!
小波  |わ、わ、わ、ぅわぁ!!
    |どっぼ〜ん!
清川  |お前なんか死ぬまで沈んでろ〜!!
小波  |(とりあえず退散しよう…)
清川  |あ、こら、泳いで逃げるな!!責任取れ〜!!
小波  |(なんの責任だ、なんの…)

・9月24日、午後、河原

小波  |あ〜あ、えらい目にあっちゃったなぁ。
    |まぁ、いいもの見れたからいいか。
    |あ、帽子がびちゃびちゃになっちゃった…。
詩織  |駒人君!
小波  |あ、詩織。
詩織  |どうしたの、びしょ濡れじゃない。
小波  |ま、まぁ、色々あってね…。
    |(清川さんの胸を見ちゃったから、なんて言えるか)
虹野  |あれ、小波君。どうしたの、びちゃびちゃじゃない。
小波  |いや、ははは…。
    |(だから言えないって…)
虹野  |そうだ、私タオル持ってるから使って。
小波  |そ、そう?悪いね。
虹野  |ううん、気にしないで。持ってたけど全然使ってなかったから。
詩織  |……。
    |こ、駒人君、服は拭ききれないでしょう。
    |脱いじゃった方が、良いと思うよ。
小波  |え…。それもそうだな。
詩織  |服をかして。あっちの岩場に干してきて上げる。
小波  |ありがとう、詩織。
詩織  |ううん、気にしないで。
虹野  |……。
    |あ、小波君。服脱いだら寒いでしょ?
    |ちょっと小さいと思うけど、カーディガン使って。
小波  |あ、でもそうしたら虹野さんが寒いんじゃ…。
虹野  |ううん、私は平気。
    |サッカー部の冬の練習なんて、こんなもんじゃ無いんだから。
小波  |そ、そうなんだ。ごめんね、じゃあありがたく…。
詩織  |駒人君、干してきた、あっ…。
小波  |ん?どうしたんだ詩織?
詩織  |ううん、何でもないの。
虹野  |小波君、暖かいでしょ、そのカーディガン。
小波  |うん、暖かいよ。これなら風邪ひかずに済みそうだ。
虹野  |良かった。
詩織  |……。
小波  |くしゅん。
虹野  |まだ寒いの?
小波  |はは、誰かが噂してるんじゃないかな?
    |ぎゅっ
虹野  |あっ…。
小波  |し、詩織!?
詩織  |こうやってくっついてれば寒くないでしょ?
小波  |詩織の服まで濡れちゃうよ。
詩織  |平気。こうしてれば寒くないもの。
虹野  |……。
    |わ、私も手伝って上げる!
    |ぎゅうぅぅ。
小波  |く、くるしい…。
虹野  |えっ?
小波  |く、首、首に手がかかってる…。
虹野  |ご、ごめんなさい!
詩織  |……。
小波  |(し、しかし、こうなると流石に暑いぞ…)
虹野  |……。
詩織  |……。
小波  |(う〜む、何とも言えない重苦しい雰囲気が…)
    |(とりあえず…、逃げよう)
    |そ、そろそろ服も乾いてると思うし、もうちょっと山菜とってくるよ。
    |じゃあ。
    |たったったったったった
詩織  |あ、駒人君!
虹野  |小波君!

・9月24日、午後、高原

小波  |さて、みんなそろったな。
    |成果の方はどうだった?
詩織  |はい、お米8人分。
虹野  |すぐに焚いちゃうね。
伊集院 |……。
小波  |伊集院、どうしたんだ?
伊集院 |あんな失態を晒してしまうとは…。
小波  |くくく…。ま、まぁそう気にするなよ。
清川  |ほら、魚。
小波  |あ、どうも…。
清川  |な、なんだよ。
小波  |ちゃんと着替えたんだね。
清川  |ば、馬鹿!当たり前だろ!
詩織  |何かあったの?
清川  |な、何でもないよ!
虹野  |清川さん、顔が真っ赤よ?
清川  |な、何でも無いったら!!
小波  |そ、そうだ、朝日奈さんと古式さんは?
    |先に帰ってきてるはずだけど。
館林  |向こうで早乙女さんと火をおこしてると思うよ。
小波  |そうか、様子でも見に行くかな。
小波  |お〜い、朝日奈さん、古式さん。
朝日奈 |あ、小波君。
古式  |あ…。
朝日奈 |ゆかり、どうしたの?
    |あそっか。小波君、帽子どうだった?
小波  |ちゃんと見つけたよ。はい、古式さん。
古式  |も、申 し 訳 あ り ま せ ん。私 な ん か の た め に…。
朝日奈 |ゆかり〜、なに改まってんのよ。
    |やるじゃん、小波君。ちゃんと見つけてくるなんてさ。
小波  |まぁ、偶然だよ。
好雄  |そこで、楽しそうに話してくれるのは良いけど、
    |少しは手伝おうって気にはならないのか?
小波  |なんだ、好雄もいたのか。
好雄  |当たり前だ!なんか扱いがひどいぞ!!
小波  |自業自得だ。
好雄  |くぅ〜。
小波  |あぁ、もう。手伝ってやるから泣くな!
小波  |さて、大体料理も出来たかな。
詩織  |山菜炊き込み、うまくできてると良いけど…。
虹野  |大丈夫。私、こう言うのは慣れてるから。
詩織  |そ、そうね。
好雄  |ふんふんふん〜。
小波  |あれ?好雄、何作ってるんだ?
好雄  |へっへぇ、聞いて驚け。茸汁だ。
小波  |き、茸汁?
    |その茸ってのは…。
好雄  |竈作るための石を探してるときに見つけたのさ。
詩織  |さ、早乙女君、そういうのは…。
虹野  |や、止めた方がいいんじゃないかなぁ。
伊集院 |ふん、庶民は何でも食べようとするからな。
朝日奈 |危ないよ、素人が茸とると。
古式  |危 険 な 茸 も あ る そ う で す し…。
館林  |わ、私は遠慮するね…。
小波  |好雄、死にたいのか?
好雄  |あ〜、みんなで言いたい放題言いやがって!
    |俺だってそれなりの知識は持ってるんだぞ!
    |もういい、全部俺が食う!!
小波  |…、葬式には出るからな。
好雄  |だ〜!
    |見てろ、大丈夫だって事を証明してやる!
    |ぱくぱく…
小波  |あ〜あ、食べちゃったよ。
好雄  |……。
虹野  |早乙女君、大丈夫?
好雄  |…う……。
小波  |おい、無理せずに吐いた方がいいぞ。
好雄  |うまい!
    |すっげ〜うまい!!
小波  |ほ、ほんとかぁ?
好雄  |ホントにうまいぜ。
    |こんなうまい茸は初めてだ!!
朝日奈 |な、なんか危なくない?
古式  |様 子 が お か し い よ う に 思 わ れ ま す が。
好雄  |あっはっは、あ…、蝶だ…。
小波  |おいおい。
好雄  |…、そうか俺も蝶だったんだ。
    |お〜い、俺も連れていってくれ〜。
    |たったったったった
小波  |ま、まずいぞこりゃ。
伊集院 |あんなものを食べるからだ。
館林  |食べなくて良かった。
虹野  |幻覚症状を引き起こす成分を持った茸だったみたい。
詩織  |「マジックマッシュルーム」ってやつね…。
朝日奈 |でも、ホントにおいしそうだったね。
古式  |毒 の あ る も の ほ ど、実 は お い し い ら し い で す し。
清川  |おいおい、そんなこと言ってる場合か!?
    |追いかけないとやばいよ!
小波  |そ、そうだ、追いかけなきゃ!!
    |だだだだだだだだ
    |どどどどどどどど
小波  |な、なんだ?
    |好雄が駆け戻って来るぞ!?
好雄  |助けてくれ〜!!
古式  |何 か に 追 い か け ら れ て る よ う で す ね ぇ。
伊集院 |あ、あれは…。
館林  |く、熊!?
小波  |なんでこんな所に熊がいるんだ!?
    |と、とにかくみんな逃げろ!!
    |だだだだだだだだ
    |のしのしのしのし
小波  |くっ、結構早いな。
    |(今の好雄とか、古式さんじゃ逃げ切れないかも…)
    |(どうする、小波駒人…)
    |(そうだ!)
    |みんな、真っ直ぐ逃げてくれ!
詩織  |駒人君、どうするの?
小波  |大丈夫、心配しないで。
    |お〜い、そこの熊!
    |餌はこっちだぞ〜!!
詩織  |こ、駒人君!?
虹野  |そ、そんなことしたら!
朝日奈 |小波君が食べられちゃうよ!
古式  |小 波 さ ん!
小波  |(よし、熊の注意はこっちに向いたぞ)
    |(後はみんなと逆の方に走り出せば…)
    |だっだっだっだっだっだ
    |のしのしのしのしのしのし
小波  |(やっぱり追いかけてきたな)
    |(よ〜し、このまま逃げ切ってやるぜ)
清川  |小波!!
館林  |小波君!!

・9月24日、午後、森の中

小波  |ぜっ、ぜっ、ぜっ…。
    |森の中ならスピードが落ちると思ったのに…。
    |なんで、こんなに早いんだ?
    |(このままじゃいずれ追いつかれちまう)
    |(そのうえ、森の中を逃げてる内に方向感覚まで…)
    |だっだっだっだっだ
    |のしのしのしのしのし
小波  |仕方ない、森から出よう。
    |草原ならこっちの方が早いはずだ。
    |(あっちの森が途切れてるな)
    |(よし、ここだ!)
    |だっだっだっだっだっだ
    |のしのしのしのしのし
詩織  |駒人君!?
小波  |詩織?みんなも!?
    |ってことは…、しまった、いつの間にか同じ方向に進んでたのか!
虹野  |小波君、熊はどうなったの?
小波  |もうすぐこっちに来る。早く逃げるんだ!
伊集院 |わ、分かった。みんなこっちだ。
    |たったったったった
    |だっだっだっだっだ
小波  |出てこないな。
    |まいたのか?
館林  |小波君、あれ!
    |がさがさがさ
小波  |さ、先回りされたのか!?
清川  |古式さん、危ない!!
朝日奈 |きゃー、ゆかりぃ!!
清川  |くっ!
    |だだだっ
    |どんっ!
    |どさっ
熊   |ぐおぉ〜。
好雄  |あ、危ねぇ。
    |もうちょっとで頭が飛んでたぞ…。
清川  |古式さん、大丈夫?
古式  |は い、あ り が と う ご ざ い ま す。
小波  |二人とも、早く逃げるんだ。
清川  |分かった!くっ!?
虹野  |足を捻ったんだわ!
小波  |(こうなったら体張ってでも止めるしかない!)
    |おい、俺が相手だ!!
詩織  |駒人君!!
小波  |二人とも早く逃げろ!!
清川  |わ、分かった…。
古式  |小 波 さ ん、で す が…
小波  |いいから、早く!
    |(くっそ〜、足がふるえてきたぜ)
好雄  |小波!危ない!!
詩織  |だめ!逃げて!!
熊   |ごわ〜っ!!
小波  |くっ!
一同  |きゃー!!
    |ぱん!
熊   |ぐわ〜っ!
小波  |……、?
一同  |???
猟師  |お前さん達大丈夫か?
小波  |こ、これは一体…。
猟師  |動物園から逃げ出した熊がこの辺りに逃げ込んだんで、
    |熊狩りをやっとたんだ。
    |立入禁止の札は出てなかったか?
小波  |気が付かなかった…。
猟師  |まぁ、けがが無くてなによりだ。
    |もう熊は出ないだろうが、気をつけて帰りな。
小波  |た、助かった…。
    |ふらっ
    |どさっ
詩織  |こ、駒人君!?
虹野  |小波君!?
清川  |小波!
古式  |小 波 さ ん!
館林  |小波君!
朝日奈 |小波く〜ん!
好雄  |小波!
伊集院 |小波君!

・9月24日、夜、小波の部屋

小波  |結局極度の緊張から解放されたショックで気を失ってしまったらしい俺は、
    |ついさっき目が覚めるまでずっとそのままだったらしい…。
    |おかげで料理がどうなったのかも、みんながどうしたのかも、
    |どうやって帰ってきたのかも分からないのだが、誰かに聞くと
    |またいらぬ騒動が持ち上がりそうで、躊躇している。
    |このまま忘れてしまった方がよいのかもしれない。
    |それよりも今は、もっと切実な問題がある。
    |明日(もう今日か)は学校だと言うのに、眠れないのだ。
    |気絶していた時間が長すぎたのか、まだ興奮状態なのか、
    |原因は定かではない。が、このままでは授業中に眠ってしまうことだけは
    |確かだろう…。
    |誰か何とかしてくれ〜!!