「1995.09.24」パニック・ピクニック(第2話)

[No.0000000018]高野

・前回のあらずじ

小波  |1995年9月、人類は空前の繁栄を謳歌していた…わけではないが少なく
    |とも俺、小波駒人はハッピィだった。
    |何故って、幼なじみであり憧れの的の藤崎詩織と同じ学校へと通い、さらに
    |は彼女にピクニックへ行かないかと誘われたのだ。
    |学年でもトップクラスの才女であり、クラブ活動でも大活躍、その上八方^H^H
    |美人の誉れ高い彼女が、俺を誘ってくれるなんて。
    |もちろん俺は二つ返事でOKしたんだが、この時側にいた俺の友人、早乙女
    |好雄が諸悪の根元だった。
    |あろう事か奴は、詩織と俺とだけのピクニックに割り込もうとし、それを軽く
    |あしらわれた事に暗い怒りを覚えたらしく、ピクニックに知り合いの女の子を
    |5人も俺の名前で招待したのだ。
    |さらに、よりによってあの伊集院レイまでも…。
    |当然、詩織はむくれるは、女の子達は騒ぐは、犬は吠えるは…、大変な騒ぎ
    |になったが、伊集院の用意したバスでとにかくピクニックへと出発すること
    |になった。
    |とはいっても、俺の頭の中はいかに詩織の誤解を解き機嫌を直してもらうか
    |でいっぱいだった。
    |やれやれ、この先どうなることやら…。

・伊集院のバス

清川  |♪…女神なんてなれないまま、私は生きるぅ〜♪
小波  |へぇ〜。清川さんって結構唄いけるんだね。でもさ、あれって何て曲?
朝日奈 |知らないのぉ〜。去年のオリコンでシングルCDの売り上げNo.1とった、
    |「新世紀エヴァンゲリオンのテーマ 残酷な天使のテーゼ」じゃないのさ。
小波  |えっ、アニメ?ふ〜ん、朝日奈さんの情報には際限がないんだね。
虹野  |でも、「流行もの」という枠があるのよね。(^^)
朝日奈 |ふ〜んだ、そんなこと言って乗り遅れたって知らないんだから。
清川  |…ひゃぁ〜、唄った唄った。絶好調ぉ〜なんてね。はは…。
好雄  |お、次は俺だな。
小波  |ぱちぱちぱち。清川さんよかったよ。上手いんだね。
清川  |えっ?そうかな、…照れるな。
朝日奈 |望ぃ、こそっと練習してるでしょ。(^^)
清川  |練習してる訳じゃないけど、みんくんとたまにね。
    |ぷれすては唄わないのか?
小波  |お、俺?俺はいいよ、先に唄ってよ。
朝日奈 |そうよねぇ、さっきもふっるぅ〜い歌唄ってたもんねぇ〜。
小波  |ははは…。
    |(そうか、本城祐司の 夢 with you って古いのか。 ロビンソンのスピッツに
    |しとけばよかったかな。)
朝日奈 |流行の歌ぁ、押さえとかないと、もてないよ。
小波  |そ、そう?
朝日奈 |そういう人に限って、ロビンソンのスピッツ唄いまぁす、なんてグループと
    |曲の区別がつかないのよね。
小波  |えっ?
虹野  |きゃはは…、おっかしぃ。そんな人いないでしょ?
朝日奈 |えー、いるんだよこれが。
小波  |…。(--;
朝日奈 |そうだ、今度私とカラオケ行こ?教えてあげちゃうから。
虹野  |それならみんなで行きましょうよ。その方が楽しいかもよ。
古式  |そ う で す ね、 楽 し い で し ょ う ね ぇ。
清川  |その時はさ、私も誘ってよね。
詩織  |…。
小波  |あ。し、詩織もカラオケいくよね、みんなでさ…。
詩織  |そうね、楽しそうですものね。
館林  |私は見てるだけでもいいですか?
朝日奈 |唄わなくてもワリカンだよぉ。
伊集院 |そんなことなら、いつでもこの僕に相談してくれたまえ。
    |全ての通信カラオケを統合させた夢のマルチメディアカラオケマシン「唄子
    |ver.5」をいつでも使えるよう、手配するよ。は〜っはっはっはっは!
朝日奈 |唄子だってぇ、…ちょダサ。
清川  |ねぇ。
好雄  |♪…創る時にはあなたとふたりがあいい…。♪…あれ、拍手はぁ?
    |拍手ぅ〜。(;_;)
朝日奈 |え、唄ってたの?好雄くん。
好雄  |がくっ。おまえらなぁ、小波に構い過ぎだぞ。
朝日奈 |妬かない妬かない。(^^)ねぇ〜、小波くぅん。
小波  |はは…。
    |(う〜。詩織ぃ、機嫌悪そうだなぁ。)
    |(この状況を何とかしなくちゃ。このままじゃ詩織との距離が縮まらない。)
虹野  |ところでさ。小波くんって食べ物何が好きなのかしら。
小波  |え?いきなりだなぁ。う〜ん、御飯のおかずならささみのフライなんか好き
    |だなぁ。
虹野  |ほんとぉ!よかった、ぴったし。私ね今日のお弁当にささみフライ作ってき
    |たの。ほら、見て見て。
小波  |これ、虹野さんが自分で作ったの?
虹野  |うん。ちょっと早起きしなくちゃいけなかったけど、小波くんに食べてもら
    |おうと思ってがんばったのよ。
小波  |へぇ〜。料理得意なんだね、虹野さんって。お昼が楽しみだなぁ。
詩織  |…。
小波  |あ、いや…。なぁ、好雄。
好雄  |俺に振っても無駄だと思うがな。
小波  |…。(;_;)
朝日奈 |ねぇねぇ。私もお弁当作ってきたんだよぉ〜ん。ほら。
虹野  |…おもち?これ。
好雄  |夕子おまえな、今は正月か?
朝日奈 |うっさいなぁ。いいでしょ、私が心を込めて作ってきたんだからぁ。
    |ね、小波くん。
小波  |あ、俺?う、うん。嬉しいなぁ。(^^;
古式  |私 の お 弁 当 も 見 て く だ さ い ま す か。一 昨 日 か ら 準 備 を
    |始 め ま し た の で、日 持 ち す る も の ば か り で す け れ ど も。
小波  |わぁ、豪華だね。古式さんのお弁当。
    |(う〜ん。(^^;おせちだな、こりゃ。5段重ねだし…。)
    |(さすが、夕子/ゆかりコンビだなぁ。(^^;)
詩織  |私はねぇ、おにぎりにしたのよ。だって、駒人くんおにぎりがいいって、
    |私お願いされたんですものね。
小波  |そ、そうだったね。楽しみにしてたんだ。
    |(な、なんだこの重苦しいような雰囲気は…。)
    |…き、清川さんのお弁当はどんなの?
清川  |わ、私はいいよ。みんなみたいに上手じゃないし。形だって、綺麗な三角に
    |揃ってないし…。
小波  |あ、おにぎりなんだ。
清川  |…うん。
詩織  |…。
清川  |…。
    |キ、キィ〜!!
小波  |うわぁ!
詩織  |きゃぁ!
好雄  |なんだぁ!
虹野  |きゃぁ〜〜〜!
小波  |…、いったいどうしたんだ。
朝日奈 |なんなのぉ〜、いったい。
伊集院 |何があったと言うんだ。(ピポッ)運転手!
好雄  |お、TV電話か?
運転手 |申し訳ありません。
    |突然道にミーアキャットが飛び出しまして…、避けようとして急ブレーキを。
伊集院 |うむ、それなら仕方ない。わかった、気を付けてくれたまえ。
朝日奈 |なんでこんなところにミーアキャットがいるのよっ!!
虹野  |あら。いるのよぉ、最近。
館林  |なんでも輸入木材にまぎれて入り込むそうですよ。
小波  |…ザリガニじゃないんだから。(^^;
虹野  |それにしても、せっかくのお弁当が台無しじゃないのぉ!!
朝日奈 |チョベリバぁ!みぃ〜んな、おじゃん?
虹野  |… 無事なのは清川さんのおにぎりくらいかしら。
詩織  |食べられるんならね。
清川  |…。(--;
小波  |…そ、そうだ。館林さんのお弁当は?
館林  |私ですか?私、料理苦手だから…、これぇ…。
小波  |「コアラのマーチ」?(^^;ま、いいけど。
虹野  |そういえば早乙女君の姿がみえないわね。
館林  |そういえばいませんねぇ。
朝日奈 |ねぇねぇ、そこに山になってるお弁当ってもしかして…。
好雄  |(がばっ)もしかして、じゃない!
朝日奈 |きゃぁ!
小波  |好雄、いきなり立つなよ。お弁当が散らかるだろ。
好雄  |そういう問題か?俺がひとりお弁当だったものの下敷きになっているという
    |のにおまえは…。友達がいのない奴だな、まったく。
小波  |わるかったよ、しお…女の子の方が心配だっただけだ。おまえだってそうする
    |よな。
好雄  |…。(--;
小波  |それにしても困ったね。せっかくのお弁当がこれじゃぁ…。
    |お昼どうしようか?
朝日奈 |どうしようっていってもぉ…。
伊集院 |は〜っはっはっはっは!心配ご無用。
    |なぜならばこの様な時のためにこそ、我が伊集院家が誇る鉄人シェフを連れて
    |きたのだから。諸君、感謝には及ばないよ。当然の準備をしたまでだからね。
    |は〜っはっはっはっは!
好雄  |それにしちゃぁよぉ、伊集院。その鉄人って姿が見えないけど、ほんとにいる
    |んだろうな。その辺からちょこっと買い置きのお弁当出すんじゃないのか?
伊集院 |失敬な。伊集院家の名にかけてその様なことはない。
    |いいだろう、今ここで鉄人を紹介してさしあげよう。
    |…いでよ、アイアンシェフ!今ここに蘇り庶民の前にその姿を現すがいっ!!
好雄  |いちいち引っかかる奴だなぁ。
    |しゅわぁ〜っ!
小波  |わ、何だ?
清川  |煙が…。
詩織  |前が見えなぁい。
朝日奈 |ちょっと、触らないでよ!
    |ふっ!
詩織  |今度は照明が消えたわ。
朝日奈 |どうしようっていうのよぉ。
古式  |楽 し い こ と に な り ま し た ね ぇ。
    |ぱしゃっ!
小波  |見ろ!あのスポットライトに浮かんだ影を。
詩織  |人なの?
朝日奈 |あ、あれが鉄人ってことぉ?
伊集院 |そう!伊集院家に代々仕える幻の料理人。鉄人「道頓堀川商人」だ!
清川  |どうとんぼり?
虹野  |あ、あきんど?
好雄  |「こまんど」といい勝負だな。
小波  |うるさい!余計なお世話だ。
    |ぱっ!
小波  |お、照明がついたぞ。
    |ぶぉ〜ん
虹野  |煙も消えていくわ。
伊集院 |ふ、強制換気システムが作動したのだ。
小波  |またこちゃこちゃしたものを…。
伊集院 |道頓堀川。私の友人方に、君の手際を見せつけてやりたまえ。
鉄人  |はい。かしこまりました。
    |ぐいぃ〜ん。
小波  |おぉ、壁が動いたと思ったら…。
詩織  |キッチンがあったのね。
鉄人  |それでは失礼しまして…。
伊集院 |待ちたまえ。その前に…。
    |古式さん、すまないがタイムを測ってもらえないか。
    |計測は得意だと聞いたのだが。
古式  |よ ろ し い で す よ。 そ れ で は マ イ ス ト ッ プ ウ オ ッ チ を
    |使 い ま し ょ う。
小波  |…なんでそんなもん持ちあるいてんだ?
詩織  |なんでも、朝日奈さんが何時でもタイムを測れるように準備してるらしいわ。
小波  |タイムって…何の?
詩織  |…し、知らない!
小波  |なに紅くなってるんだろう、変な詩織。
伊集院 |それではこの僕のリクエストを叶えてもらおう。
    |最初は…そうだな。酢豚をお願いしよう。
鉄人  |かしこまりました。それではお声をお願いいたします。
伊集院 |よし…、始め!
    |ちゃっ。
    |だだっ!とんとんとん…。がさっ!
    |しゅぼぉ!とんとんとん…。ちりちりちり。
    |ちゃちゃっ、じゅわぁ〜!!
    |かちゃかちゃかちゃかちゃかちゃ。
    |じゅわじゅわぁ〜!!
    |ささっ。
鉄人  |お待たせいたしました。お召し上がりください。
伊集院 |うむ。古式さん、タイムは?
古式  |は い。 2 分 1 3 秒 で す。
小波  |おぉ〜!
虹野  |早いわ。
詩織  |すごいわ!
好雄  |味はどうなんだよ、伊集院。
伊集院 |ふん。聞くだけ野暮というものだが…、虹野さん試食してもらえるかな?
虹野  |は、はい。…それじゃぁ。
    |ぱく。もぐもぐ。
虹野  |うわぁ!凄く美味しいわ。こんな酢豚初めてです。
好雄  |どれどれ、俺にも喰わせろ。
    |うぉ〜、確かに旨い!
伊集院 |ふふふ…。は〜っはっはっはっは!
    |見たかね、鉄人「道頓堀川商人」の実力を!
    |さぁ、次はラザニアをお願いしよう!
    |
古式  |4 分 5 6 秒 で す。
伊集院 |次はビーフシチューを…。
    |
古式  |8 分 4 秒 で す。
虹野  |…凄いわねぇ。
清川  |でもさ、今からこんなでお昼に材料がないなんて事にならないといいけど。
虹野  |伊集院くんなら、いざとなったら空輸するとか言い出しかねないじゃない。
清川  |そ、そうよね。
伊集院 |は〜っはっはっはっは!
    |それでは次は天ぷら盛り合わせを頼むよ。
鉄人  |かしこまりました。
    |ちゃちゃちゃっ。とんとんとん…。
    |じゅわぁ〜。
    |キ、キィ〜!!
清川  |うわぁ!
虹野  |きゃぁ!
小波  |なんだぁ!
詩織  |きゃぁ〜〜〜!
    |ぼんっ!
伊集院 |またか…。(ピポッ)運転手、今度は何事だ。
運転手 |も、申し訳ありません。道に急にウォンバットが飛び出しまして。
伊集院 |ウォンバットか、ならば仕方がない。彼らは貴重な種だからな。
朝日奈 |なんでウォンバットがこんなところに…。
館林  |ウォンバットも見かけるようになりましたね。
虹野  |そうそう、私の家の近所でも野良ウォンバットにさんまを取られったって、
    |裸足で駆け出した奥さんがいたわ。
小波  |ウォンバットってそんなにすばしっこかったっけ?
虹野  |あら、順応したんじゃないかしら。
好雄  |おまえら!それどころじゃないだろ。キッチンが燃えてるぞ!
虹野  |きゃぁ〜!
小波  |確かに言われてみれば火の手が…。
好雄  |気が付けよ、おまえら。
伊集院 |諸君、安心したまえ。この様なときのためにこのバスには非常用自動消火シス
    |テムが装備されているのだ。有事の際にはあのセンサーが…。
    |どてっ!
小波  |どうした、伊集院。こけるなんてらしくないぞ。
虹野  |あら?あれって朝日奈さんのお弁当のあべかわもちじゃないかしら。
小波  |お〜。確かになんか天井でくるくる回ってるなぁ。
    |ほんとはあそこにセンサーがあるんだな、きっと。
古式  |回 る お も ち っ て、な ん だ か 楽 し い で す ね ぇ。
好雄  |落ち着くなよ!燃えてんだから。
伊集院 |安心したまえ。この様なときのためにこのバスには非常用手動消火システムが
    |装備されているのだ。
朝日奈 |だったら早くと消してよぉ。
    |道頓堀川さん、髭に火が燃え移ってキッチンの中走り回ってるんだから。
鉄人  |水、水、水、水、水ぅ〜!水をくれぇ!
伊集院 |それは一大事。貴重な人材を失うわけにはいかん。それ!
    |ぐいっ!
    |…グイングイングイン…。パシュ!
    |ブォ〜!ブッシュゥ!
小波  |おぉ!凄い威力だ。もう火が消えそうだ。
    |朝日奈さん、大丈夫?濡れなかった。
朝日奈 |うん、平気。好雄くんが盾になってくれたから。
好雄  |あのな!おまえが俺を勝手に盾代わりにしたんだろうが!
朝日奈 |なによぉ、女の子守るのが男の勤めってモンでしょ。
好雄  |守る相手ぐらい選びたいぜ…。
朝日奈 |なんか文句あるぅ?
古式  |ま ぁ、 お 二 人 と も 仲 が よ ろ し い の で す ね ぇ。
好雄  |そうじゃない!
朝日奈 |そんなことない!
小波  |それはそうと、このキッチンもうだめだな。
清川  |鉄人は?
詩織  |道頓堀川さんも床でのびてるわ。
好雄  |う〜む。再起不能かもな。
伊集院 |縁起でもないことをいうな。我が伊集院家の誇る医療チームが治療に当たれば
    |完治するなど造作もないことだ。
小波  |ならいいけどさ。今日のお昼はどうすんだよ。
伊集院 |うぐっ。…そうだな、少し待ってくれたまえ。
詩織  |なんかまた、振り出しに戻ったって感じね。
小波  |そうだね。
二人  |あはははは…。
好雄  |小波!二人で和んでないで手伝え!
    |「飯盒セット」があるっていうから、そいつを引っぱり出すぞ。
小波  |わかった、今いく。
詩織  |駒人くん、頑張ってね。
小波  |おう。まかせといてっ!
    |(詩織、機嫌直ったかな。よおっし、この調子で頑張るぞっ!