「1995.06.10」当方に監視の準備あり〜伊集院レイ〜
[No.0000000004]新里
・伊集院の部屋(6/10夜)
電話 |Trrr…Trrr…
|ガチャ
伊集院 |伊集院だが。
古式 |古式ゆかりでございますけども…。
伊集院 |なんだ、ゆかりか。僕はてっきり…。
古式 |てっきり、なんでしょうか?
伊集院 |そ、それより、何の用だね?
古式 |まぁ、私にまでそんな言葉遣いをなさらなくてもよろしいのに…。
伊集院 |あ、いや、それはそうなんだが…。
|そ、それはそうと、用はなんだね?
古式 |そんなに急かさなくても…。
|もしかして、今日は何か用事でもあったのですか?
|それならそうとおっしゃっていただければ、私も早めに用件を伝えて
|電話を切りますものを…。
伊集院 |た、頼むから用件を…。
古式 |あ、申し訳ありません。今日は用件を手短に伝えるつもりでしたのに、
|つい話が弾んでしまいました…。
伊集院 |(弾んでない…)
古式 |実は、私、あの、相談したいことがございまして、あの…できれば、
|直接お会いして相談いたしたいのですが…。
伊集院 |なっ…。
|(なぜ最初からそう言わない…)
古式 |あのー、よろしいでしょうか?
伊集院 |ああ、わかった。
|他ならぬ君の頼みだからね、断わるわけにはいかんだろう。
|場所は、僕の家で構わないか?
古式 |はい、ありがとうございます。
|それでは、明日の午後にでもお伺いさせていただきます。
伊集院 |わかった。それでは、失礼するよ。
古式 |それでは、失礼致します。
|ガチャ
伊集院 |ゆかりが僕に相談とは…。
|父君や他の女性には話せないようなことなのか…。
|まぁいい、会って話を聞けばわかることだ。
電話 |Trrr…Trrr…
|ガチャ
伊集院 |伊集院だが。
古式 |古式ゆかりでございますけども…。
伊集院 |なんだ、ゆかりか。まだ話すことがあるのか?
古式 |あの、明日のことは、できましたら誰にも話さないでいただきたいの…
伊集院 |そ、そんなこと、明日言えばいいじゃないか。
古式 |それもそうですね。
伊集院 |それじゃ、失礼するよ。
古式 |それでは、失礼いた…
|ガチャ
伊集院 |まったく…。
|しかし、こんなに念を押すとは、よほど重要な話なのか…。
|まぁいい、会って話を聞けばわかることだ。
電話 |Trrr…Trrr…
|ガチャ
伊集院 |ゆかり、いい加減にして…
小波 |あの、小波ですけど。…あれ。
|すみません、かけ間違えました。
伊集院 |な…。あ、ちょ、ちょっと待っ…。
小波 |…?
伊集院 |伊集院だが。
小波 |小波…ですけど。…?
伊集院 |な、なんだ、君か。何のようだね?
小波 |いや、別に用はないんだけど…。
|なんか、さっき…。
伊集院 |いや、今、電話回線の調子が悪いようだ…。
|なにか不都合な点でも?
小波 |…今さっき、ゆかりって言わなかった?
伊集院 |そ、そんなことは言っていない!
小波 |そうか…電話が混線しているのかな?
伊集院 |きっとそうだろう。
|なにせ、我家には電話回線が二千回線もあるからねぇ。
|恐らく、メイドの誰かが私用電話しているのと混線したんだな。
小波 |でも、電話帳には伊集院の電話番号って一つしか載ってないぞ。
伊集院 |そ、それは、代表番号だ。
小波 |ふぅ〜ん。
伊集院 |それより、早く用件を言いたまえ。
|僕は君のような暇人ではないんだ。
小波 |用はないってさっき言ったけど…。
伊集院 |あ、あいにく、僕は君のような暇人ではないんだ。
小波 |それはさっき聞いた。
伊集院 |しっ…失礼するよ。
|…。
|…いや、ちょっと待ちたまえ。
|一度、君に聞いておきたいと思ったことがある。
|君はなぜ、この僕に執拗に電話をかけてくるのかね?
電話 |プー…、プー…、プー…
伊集院 |…。
|き…切っている…。
|ガチャ
・伊集院の部屋(6/11昼)
外井 |レイ様、古式ゆかり様がお見えになっています。
伊集院 |そうか。では、僕の部屋に案内してくれ。
外井 |かしこまりました。
伊集院 |あと、夕食は僕の部屋に、二人分だ。
外井 |かしこまりました。
古式 |こんにちは…。
伊集院 |やぁ、ゆかり。相談ってなんだね?
古式 |いきなりですねぇ。
伊集院 |でなければ、夕食までに終わらん。
古式 |そんな、長話にはなりませんよ…。
伊集院 |話の内容はともかく、話は長引くんだ、ゆかりの場合。
古式 |女性が早口で喋るのははしたないことだと、お父様もおっしゃいますし。
|そもそも日本の女性は…
伊集院 |で、相談って?
古式 |聞いてませんね?
伊集院 |日本の女性について解説に来たのなら結構だ。
|僕だって、色々と考えるところはあるんだ…。
古式 |大変ですねぇ…。
伊集院 |うん…。
|そ、それより、相談を…。
古式 |今日はいい天気ですねぇ…。
伊集院 |ゆかりぃ…。
古式 |こんな日は、本来の姿に戻って外に出かけましょう。
伊集院 |な、何を言ってるんだ。そんなこと出来るわけ…。
古式 |そうでしたね。お父様には逆らえませんものね…。
|「ゆかりはいつもお父様の言いなりだな」
|なんておっしゃっても、結局は同じなんですよね…。
伊集院 |ゆ、ゆかり、君は僕に喧嘩を売りに来たのかね?
古式 |とんでもございません。
伊集院 |じゃぁ、早く用件を言いたまえ。
古式 |私は、幼なじみの友達に相談に来たのです…。
伊集院 |…わかった。相談ってなに?…話してみて。
古式 |はい…。実は…。
伊集院 |…。
古式 |あの…。
伊集院 |早く言いたまえ。
古式 |あ〜っ、戻ってる…。
伊集院 |そ、そんなこといいじゃないか。
古式 |よくない。
伊集院 |いいってば。
古式 |じゃぁ話さない。
伊集院 |じゃぁ何をしに来たんだよ、ゆかり…。
|コンコン…
外井 |レイ様、お茶が入りました…。
伊集院 |は、入りたまえ。
外井 |失礼します…。
伊集院 |…。
古式 |…。
外井 |古式様、お砂糖の方はいくつお入れしましょう?
古式 |一つ、お願いします。
外井 |レイ様は…。
伊集院 |太るからいらん。
外井 |…でございましたね。
伊集院 |外井、もういい。外にいろ。
外井 |レ、レイ様…。
伊集院 |みっともない声を出すな。
|ゆかりと相談があるので外に出ていろ。
外井 |かしこまりました…。
古式 |先ほどの方、泣いてらしたようですが…。
伊集院 |外井は僕のアフタヌーンティーをいれるのが生きがいなんだ。
古式 |まぁ、お可哀想に…。
伊集院 |確かに、追い出したのは可哀想だったかもな。
古式 |いえ、お茶をいれるだけが生きがいだなんて…。
|そうだ、今度、編み物を教えて差し上げましょう。
伊集院 |外井は編み物はやらんだろう。
古式 |そうですか…。
伊集院 |そうだ…。
古式 |…。
伊集院 |さて、話してもらおっか、ゆかり。
古式 |うん…。
|あの、実は、私…。
|好きな殿方が…。
伊集院 |ぶふっ!
古式 |…。
伊集院 |いや、失礼…ごめん。いきなりだったから。
|…で、相手は誰なの?
古式 |そ、それは…その…。
伊集院 |言っちゃいなさいよ。それを相談に来たんだ…でしょ?
古式 |小波駒人…という方をご存知ですよね?
伊集院 |ぶふっ!
古式 |…。
伊集院 |いや、失礼…ごめん。いや、知ってるけど。
古式 |そう言えば、同じクラスでしたね。
伊集院 |ああ、何度か話をしたこともある。
古式 |うらやましい…。
伊集院 |うらやましいことなどあるものか、あんな庶民ごとき…。
古式 |色々とご存知なんですね。
伊集院 |単なるクラスメートだ。
|それに、あまり深入りできないということはゆかりも知ってるだろう。
古式 |それはそうですけど…。
伊集院 |で、僕…いや、私に何をして欲しいの?
古式 |いえ、お願いがあるのは「僕」のほうなんですけど…。
伊集院 |ん?
電話 |Trrr…Trrr…
伊集院 |あ、電話。ちょっとごめん。
|ガチャ
伊集院 |伊集院ですけど。
小波 |小波と申しますけど、伊集院レイ君はいますでしょうか。
伊集院 |(ゲッ、しまっ…)
|い…伊集院…
小波 |?
伊集院 |伊集院レイ様は、ただいま外出しております。
|ご用件がおありでしたら伝えておきますが…。
小波 |…いえ、それならいいです。
|電話があったとだけ伝えておいてください。
|ガチャ
伊集院 |…。ば、ばれなかった…だろうか…。
|しかし、なんでこんな時間に…。
古式 |どなたからの電話ですか?
伊集院 |と、友達からだよ。
古式 |友達って?
伊集院 |な、なんでそんなことを知りたがるんだよ。
古式 |そういえば…何故でしょう?
伊集院 |(勘だけは鋭い…)
古式 |何か?
伊集院 |い、いや、何でもない。
|そ、そう、頼み事があるんだったね。
古式 |あ、そうです…。
|あの…。
|小波駒人さんのことを、色々と教えていただきたいのです。
伊集院 |ぶふっ!
古式 |ふざけないでください。
伊集院 |いや…ごめん。
|色々って、何を…。
古式 |何でもいいのです。好きな色とか、好きな日本舞踏とか…。
伊集院 |日本舞踏とは無縁だろう。
古式 |そういった、日常的なことを教えていただければと…。
伊集院 |しかし、僕も彼のことをずっと見ているわけではないからねぇ。
古式 |でしたら、これから見ていてくださいませんか?
伊集院 |な、なんで僕があんな奴を…。
|ゆかりが自分で話しかければいいじゃないか…。
古式 |それはそうなんですけれども…。
|私が小波さんに話しかけようと思っても、先にどなたかが話しかけて
|しまわれることが多いもので…。
|それに、やっと話しかけても、小波さんは私のことしか話しませんし…。
伊集院 |確かに、あいつは自分のことは喋らないな。
古式 |ですので、好きな色を教えていただこうにも…。
伊集院 |さっきから色にこだわっているようだが…。
|もしかして…。
古式 |いえ、手編みのマフラーを差し上げようなどということは、
|少しも考えておりません…。
伊集院 |そ、そうか…。
古式 |はい…。
伊集院 |…。
|そうか、わかった。小波の事を調べてくればいいんだな。
古式 |はい、お願いします…。
|コンコン…
外井 |レイ様、夕食の準備が整いましてございます。
伊集院 |なに、早すぎるぞ。
外井 |え、しかし…。
伊集院 |あ、もうこんな時間か。
|外井、食事にする。
外井 |はい。
伊集院 |ゆかり、君の分も用意してある。
|我が伊集院家が誇る、超豪華高級料理を食べていってくれたまえ。
古式 |くすくす…。
伊集院 |あ、そうか。ついいつもの癖が…。
・伊集院の部屋(6/11夜)
伊集院 |小波駒人…か。
|考えてみると、あいつの行動は謎が多すぎるな。
|授業も受けずに校庭で一週間も寝ていたという報告もあるし、
|ひたすら遊び続けていたこともある…。
|あいつの行動は、少し調べてみるのもいいかも知れんな。
|特に、この時間になると…。
電話 |Trrr…Trrr…
|ガチャ
伊集院 |伊集院だが。
小波 |小波駒人ですけど…。
伊集院 |やれやれ、また君か。
|どうせ、また用もなしに電話をしているのだろう。
小波 |それはそうだけど…。
伊集院 |(もしかして、この僕のことを探るために…?)
|それでは、僕の趣味について話してやろう。
小波 |あ、悪い、用事を思い出した。じゃぁな。
伊集院 |おい、待ちたまえ!
小波 |ガチャ
電話 |プー…、プー…、プー…
伊集院 |…。
伊集院 |やれやれ、まったく、庶民というものは…。
|何も話さないのなら、なぜわざわざ電話などを…。
|も、もしや…。
|外井、外井はいるか!
外井 |はい、レイ様。
伊集院 |館内に盗聴機や発信機の類がないかを至急調査しろ。
|また、一分前に僕の部屋にかかってきた電話によって使われた回線に
|不審な点がないかも調査だ。
外井 |レイ様、一体…。
伊集院 |何者かが、当館の電話回線を使用し、接続の瞬間を狙って我が伊集院家の
|専用回線をクラッキングしようとしている可能性がある…。
外井 |ま、まさか、そんな…。
|しかし、それでしたら私設軍隊に諜報部がありますので、心配は
|ないかと思いますが…。
伊集院 |…いや、調査を徹底させるんだ。
|念のため、当館のシステムも他社製品に切り替えろ。
外井 |…か、かしこまりました。
伊集院 |小波駒人…実は対立企業のスパイかも知れん。
|いや、それとも、僕の秘密に気付いたのか…。
|そう言えば、昼間、妙な時間に電話をしてきたのも気になる。
|これは、目が離せんな…。
|ゆかりの頼みもあるが、この僕自らが監視をしてやろう。
|必ず、しっぽを掴んでみせるぞ…。
|もしスパイだとしたら…。記憶操作の準備もさせておくか…。
・学校(6/12朝)
伊集院 |やぁ、おはよう。
小波 |な、何だよ、朝っぱらから…。
伊集院 |朝の挨拶は朝っぱらからするものだろう。
小波 |そりゃそうだ。…で、何か用か?
伊集院 |…。
小波 |何だよ、俺の顔に何か付いているのか?
伊集院 |いや、何でもない。
|それより、昨日はうちの電話回線が不調で、失礼した。
小波 |何のことだ?
伊集院 |とぼけ方はイマイチだな。
小波 |な、何のことだよ。
伊集院 |…まあいい、失礼するよ。
小波 |何だったんだ…。
好雄 |よう、小波。
小波 |ああ、好雄か。おはよう。
好雄 |何かあったのか?
小波 |伊集院に会った。
好雄 |そりゃ災難だったな。ご愁傷様。明日はいいことあるさ。
小波 |突き落とすなよ…。
好雄 |さぁ、授業だ…。
小波 |何か、朝から疲れてしまった…。
|来週は一週間寝るとするか。
伊集院 |ふむ…。僕と面と向かっても動揺はないようだが、電話回線の
|話題は明かにとぼけているようだな…。
|面白い、この僕の名誉にかけて、化けの皮を剥がしてやる。
|ふっふっふ、はっはっはっは…。