「1995.05.16」始まりの手紙

[No.0000000018]高野
朝日奈 |「あーあ、なんかビンボーって感じ。」
    |のっけから寂しいなぁ、こーゆーの。(^^;
    |でもね、ゴールデンウィーク終わったばっかだし、ちょっと遊び
    |すぎたかなぁって反省ーってゆうか感想ーはあるんだけど、女子
    |高生のGWは3度しかないんだからしょーがないよね。
    |こういう日に限ってお声もかからないってことは、おっとこのこ
    |もビンボーなのかな、なんて考えたりして、楽しくないね。
    |あ、えっとぉ。私、朝日奈夕子っていうの。よろしくね。
    |初めに自己紹介してる割には、私ってこのお話のヒロインじゃない
    |のよね。
    |こうゆうのってなんか失礼よね。私なんか普通ならあったまにき
    |ちゃうってとこだけど
    |今回はちょっと大人しめなんだ。
    |どーしてかっていうと、このお話は私の親友がヒロインだったりす
    |るから、なの。
    |その娘はぁ、そのうち登場するから楽しみに待っててよね。
    |ところで、今日は1995年の5月16日。
    |私と彼女は私立きらめき高校の新入生。女子高生よ。
    |きらめき高校って、この辺りじゃ結構有名な進学校で入試だって大
    |変だったんだから。
    |4月の入学式。新しい環境、新しい友達…。不安もあったけど、高
    |校生活はエンジョイしなくちゃね。
    |なぁ〜んて言ってみても、GW遊びまくったつけでビンボーな今日
    |この頃…とほほって感じよね。
    |仕方ない、うちへ帰ってprfの新譜、マスターしちゃおっかな。
    |中盤がもうちょっとなんだよね。なんかこー、ステップにのれな
    |いって感じでさ…。

・朝日奈家午後4時過ぎ…

朝日奈 |「お母さん、ただいまぁ。」
母   |「おかえりなさい。今日は早かったのね。」
朝日奈 |「えっ、そう?」
母   |「連休遊びすぎて、お小遣いないんでしょ?」
朝日奈 |「えへっ。あったりぃ。…で、援助してくれるの?」
母   |「だ〜め。ちゃんと毎月の分で何とかしなさい。」
朝日奈 |「ちぇ〜。やぁ〜ぱだめかぁ。
    |2階いるねぇ。」
母   |「はいはい。そうだ夕子。あなた宛に手紙来てたから、いつものと
    |ころ入れといたわよ。」
朝日奈 |「はぁい。」
    |(トントントン…)
朝日奈 |玄関脇の階段を上がって突き当たりが私の部屋。
    |ドアに下げてあるコルクボードがちょっとオシャレって感じでしょ。
    |いっつも私が家にいないから、行き先ぐらいははっきりさせてって
    |お母さんがうるさくって…。それでコルクボードに行き先とか、連
    |絡先を貼り付けておくの。
    |ポケットもついてるから、手紙なんか来るとこうして入れといてく
    |れるってわけ。
    |「手紙手紙…と。誰からかなぁ…。」
    |「これは…ゆかりね。」
    |こういう、ちょっとくすんだような緑色…萌葱色ってゆーの?…の
    |封筒を使うのは彼女に違いないわ。筆跡だってそう…。
    |…ゆかりっていうのはぁ、私の中学校の頃からの友達で、古式不動
    |産っていうこの辺りじゃかなり有名なお金持ちの家の一人娘なの。
    |(このお話のヒロインは彼女なの。)
    |いかにも箱入りのお嬢さんって感じだけど、タカビーっていうん
    |じゃなくてテンポがかなり緩やかぁ、なのよね。
    |奥ゆかしいって感じなんだけど、うっとうしいって言う娘もいるわね。
    |(まぁ、そういうこと言う娘は私がいじめちゃうんだけど。)
    |性格はいい娘なんだけど、お金持ちの家の子ってなんか敬遠され
    |ちゃうみたいで、がっこでお喋りすくるらいの友達はまぁまぁいる
    |んだけど、一緒に遊びに行くような友達は少ないみたい。
    |私は…ほら、そういうの全然気にしないから平気だけどねぇ。
    |つきあってみるとねー、楽しいんだゆかりって。
    |考え方が古風ってゆーか、私なんかと違うから新しい発見があった
    |りするし。
    |結構すっごいこと平気でいったりするから驚いちゃう。
    |…んでぇ、手紙の差出人はと…、
    |「やっぱ、ゆかりだ。」
    |うふっ。
    |そういえば高校に入ってからゆかりに手紙もらうの初めてね。
    |中学の時もよく手紙のやり取りしたっけ…同じ学校、通ってたんだ
    |けどね。
    |あたしは無精だから、ゆかりから来る手紙の方がずいぶん多かった
    |なぁ。
    |…こうゆう紫のインク使うところがゆかりよねぇ。
    |「紫は高貴な色なんですよ…」、なんてゆかりが言ってたっけ。
    |…。
    |おっと、着替え着替え…。
    |(ばさばさ…)
    |うちのがっこのリボンってちょっと大き過ぎよねぇ。
    |もちょっと小さい方が可愛いと思うんだけどなぁ…。
    |あっそうだ!新譜新譜っ!
    |(かちゃっ、じー。 ピ!)
    |♪ Lonly〜
    |タンタンタタタ、タタタタタタンタ…
    |「左、右、左、左、右、右、下がって、キメ!」
    |っと…。やっぱタイミング合わないんだよねぇ〜。
    |もいっかい。
    |(…カチャ…、ピ!)
    |「ワン、ツー、スリー、フォー。
    |左、右、左、左、右…あちゃ、あーもう!!やめたっ!」
    |(ばむっ!)
    |「いったぁ〜。」
    |痛いじゃなぁい。どうしてベットにカバンなんかあるわけ?
    |って私だよね〜。(^^;
    |ふ〜、暑いぃ。スカートも脱いじゃえばよかった…。
    |…。
    |「さてっと、ゆかりは何を思いついたのかな?」
    |中学校の頃も、ゆかりといろんな手紙のやりとりしたなぁ。
    |がっこのちょっとしたこと…保健の先生とのお喋りのこととか、ク
    |ラスの娘のことで私が愚痴こぼしたり、…そんなとき決まってゆか
    |りがいうのよねぇ。
    |「夕子さんのおっしゃることの方が正しいのですから、そういう悪
    |口みたいないいようは、およしになった方がいいですよ。
    |夕子さんの格が下がります。」
    |…なぁんて。私に格式なんて言葉を持ち出すのはゆかりぐらいよ
    |ね。くすっ。
    |ゆかりの家に咲いた花の話や私が行ったコンサートの話…あのとき
    |は便箋何枚書いたっけなぁ…大きな字で。あはは…。
    |「夕子さんの興奮している様子が、伝わってきましたよ。」ってゆ
    |かりに言われたときは、なんか嬉しかったぁ。嬉しくって次の日
    |がっこで抱きしめちゃった。
    |…そうそう、捨てられてた子犬の話もしたっけ…。次の朝にはもう
    |いなかったんだね。
    |あの時の子犬どうなったのかなぁ。
    |私にしてはまめに手紙書いたよね。ま、ゆかりの方が倍は書いてる
    |けどね。
    |私はどっちかというと、ゆかりの手紙をネタにして一緒にまっく
    |行ったりする方が好きだったけどね。ゆかりの家は門限早いから大
    |変だったなぁ。
    |(がたっ、ごそごそ…)
    |この銀のペーパーナイフ、14歳の誕生日にゆかりにもらったプレ
    |ゼントなんだ。
    |手紙を書くのはおっくうな私だけど、こうしてペーパーナイフで封
    |を切る瞬間って結構好きなんだ。
    |(しゅっ。かさかさ…)
    |…この便箋。ゆかりのお気に入りだね。
    |厚手の真っ白い紙に、上下だけ小さな花のイラストで縁取られて
    |て、罫線は薄いオレンジ色。封筒は季節や気分でいろいろ選んでる
    |みたいだけど、便箋はいつも同じもの。
    |うふふ…。ゆかりの手紙、書き出しはいっつも季節のことだな…。
手紙  |朝日奈夕子様。
    |桜の季節も過ぎ、若葉の緑が眩しいくらいになりましたね。
    |この4月に高校生になったばかりの私たちですが、先の連休を機会
    |とするかのように、級友も増え、部活動の先輩方とも親しさを増し
    |たように思います。
    |夕子さんはいかがですか。
    |中学では同じテニス部で一緒に練習していましたが、高校では部活
    |動はなさらないのでしょうか。
    |運動はあまり得意でない私ですが、テニスだけはいつまでも続けた
    |いと思っています。
    |この様な事は学校でお会いしたときにでもお話すればよいことなの
    |ですが、夕子さんの顔を見ながらでは恥ずかしいですし、私は部活
    |動、夕子さんも何かとお忙しそうですので、久しぶりに筆を執って
    |みました。
    |実は夕子さんにご報告しなければいけないことがあるのです。
    |中学を卒業するときに、夕子さんは私に仰いましたよね。
    |好きな殿方ができたら最初に知らせてほしい、と。
    |私、好きな人ができました。
    |でもまだ、その方のことをよく知らないのです。
    |背はそれ程高くなく、見かけは少しおっとりとした感じですが、目
    |の感じが素敵な方です。目の表情が豊かと申しましょうか、感情が
    |目から動き出すような印象をその方からは受けます。
    |それに、楽しそうに笑う笑顔が本当に素敵なんです。
    |初めてお見かけしたのは4月の終わり頃でしたでしょうか。
    |その時は、その方と他に5人ほどのご友人達とで雑談をされていた
    |ようなのですが、なぜかその方だけが気になったのです。
    |思わず見とれてしまいました。
    |それから何度かお姿をお見かけしているうちに、私の中でその方へ
    |の想いが募ってしまったのです。
    |今はまだその方のお名前をお教えできません。
    |夕子さんはすぐにからかうんですもの。それに、私の片想いですか
    |ら。もしその方とお付き合いをすることができましたら、最初に紹
    |介します。
    |それではまた。
    |古式ゆかり
    |追伸昼間の暖かさに比べ、朝夕の冷え込みがまだ続いています。
    |くれぐれもお身体にお気をつけて、御自愛下さいませ。
朝日奈 |「ふ〜ん、典型的ひとめ惚れってやつだわぁ。」
    |「ゆかりに想い人かぁ。誰だろ…。」
    |手紙を読み終えて、なんだか嬉しくなっちゃった。
    |手紙の文面からはゆかりの笑顔がこぼれてるようだったし、中学の
    |頃は必要以上に男の子との間に距離を置いてるようだったゆかり
    |に、好きな人ができたなんて…。
    |女の私が言うのも変だけど、ゆかりって飛び抜けてはいないけど可
    |愛いい娘だし、彼女にその気があればぁ、中学の時だって男の子に
    |もてたと思うよ。(その気がなくても、人気はあったしね。私はい
    |ろいろ知ってたんだけど。(^^;)
    |でも、ゆかりって男の子に興味なかったみたいだし…。ゆかりの
    |家って躾が厳しかった
    |から…、旧家のしきたりってゆうの?なんか大変だったみたい。
    |だから仕方ないと思うんだ。
    |中学はそんなだったから私もあんまりそっちの方はアドバイスしな
    |かったけど、高校生になればこっちのもんだもんね。
    |だから私は中学を卒業するときにゆかりに言ったのよ。
    |「好きな男の子ができたら、最初に私に教えてね」って。
    |その約束、ちゃぁんと憶えててくれたんだ、ゆかり。
    |相手がどんな人かわかんないけど、ゆかりが好きになったんだか
    |らきっと…、ん?もしかしてゆかりってば初恋??
    |うまくいくといいね、ゆかり。
    |高校生活、楽しくなりそうだね。